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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 21 浩司の優しさ

「………ご、ごめん…
  ズルイ…よな…………」

 いや違う…

 わたしが…浩司に…

 そう…云わせてしまったのだ…

「ひ、ひん…」
 嗚咽をしながら首を振る。

「ごめん…
 男の…ズルさ…だよな……」

 いや、違う…

 わたしは、ぐるぐると首を振る。

 万が一、わたしと浩司の不倫の関係という事実を、娘の美香ちゃんか知ってしまったならば…

 わたしを尊敬しているという…

 わたしに憧れているという…

 わたしみたいなプレイヤーになりたいという…

 そんな将来有望な、素晴らしい素質溢れる浩司の一人娘の美香ちゃんが…

 そんな憧れの存在のわたしが、父親と不倫をしていた、それも3年間という時間…

 もしも、万が一、そんな事実を知ってしまったのならば…

 ショックどころの話しでは無くなる…

 いや、それこそ…

 美香ちゃんという一人の15歳の少女の全てを壊し、存在意義、自分の存在価値等の全てを壊し、無くし、失くしてしまう事は明白なのだ…
 
 そして既に全日本の選手にも選ばれており、アンダー15とはいえアジア選手権大会でのMVPにまでなっている、つまりはバスケット界でも日本の損出レベルの話しにまでなってしまうのである…

 浩司が父親でいたい…と、云ってきた。
 本当はそんなレベルの話しではなく、彼の事である、全てを分かった上でのこの言葉の筈なのであろうと思われた。


「……う、ううん…ズ、ズルくなんか無いわ…」
 わたしは必死に声を振り絞る。

 彼を、浩司一人を悪者にはできない…

『男のズルさ…』
 そして、そんな言葉通りの意味ではないのである。

 この言葉は…

 浩司の優しさ…なのである。


 全てはわたしと、美香ちゃんを思っての言葉なのである…

「お、俺だって…
 俺だって、本当はゆりと…
 別れたくなんかないさ…」

 だけど…
 時間が…
 俺達二人の時間が…
 この選択しか無くしてしまったんだ…


「本当は、もっと早くすれば良かったんだ…
 だけど…
 だけど…
 俺が、俺の気持ちが…
      あっ………」

 わたしはその言葉の途中で、浩司に抱き付き、キスをした。

 いや違う、唇で彼の言葉を塞いで、止めたのである…

 もうこれ以上…

 彼を一人悪者にはできない…


 


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