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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 22 涙のキス

「本当は、もっと早くすれば良かったんだ…
 だけど…
 だけど…
 俺が、俺の気持ちが…
      あっ………」
 わたしはその言葉の途中で浩司に抱き付きキスをした、いや違う、唇で彼の言葉を塞いで、止めたのである…
 もうこれ以上、彼一人を悪者にはできなかったのだ。
 そしてそのキスはわたしの涙でぐしょぐしょで、塩辛いキスであった。

 
 もういい…

 もうわかった…

 だから、もうこれ以上云わないで…

 わたしはそのキスにそんな意味を込めたのだ。


 本当ならば、夏休みの終わりの、あの進学を決めたタイミングで別れるべきであったのだ…

 それなのに…

 わたしはあの時以来に浩司が時折見せる表情の翳りの意味を、本当は分かっていたくせに敢えて知らんぷり、いや、考える事から逃げて、避けていた…

 その挙げ句に、こうして彼を苦しめて、苦悩させて、一人悪者にさせてしまったのだ…


『俺は…
 ずっと、美香の父親でいたい…』

 男ならば…

 いや、父親ならば…

 その想いは至極当然の想いなのである…

 当たり前の想いなのである。

 それを…

 それを分かっていて、こうして彼の口から云わせてしまうわたしがダメなのだ…

 ダメなのである…


『ごめん…男の…ズルさ…だよな…』

 違うのだ…

 ズルくなんかはない…

 全ては、こうして彼に云わせてしまうわたしが悪いのだ…

 悪いのである…


「…わ、わかったから…
 も、もう…謝らない…で…」
 鼻水を啜り、嗚咽を堪え、わたしはそう必死に囁いた。

「…………うん……」
 
 そう浩司は頷く。



「ウインターカップの結果がどうあれ、12月29日の夜には帰ってきます…」

「うん…」
 
「…だから、その…夜を…うっ、ひ、ひん……」

 再び涙がこみ上げ、嗚咽を漏らす…

「ひ、ひん……だ、だから…」

 その夜を最後に…

 最後の夜にして…

 お別れにしたい…

 と、涙と嗚咽で言葉が出なかった。




 
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