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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 28 別れの夜 ⑤

『…でも来年期待できるじゃないか…』

 アパートへ向かう帰途のタクシーの中でわたしは、さっき浩司に言われた言葉を想い返していた。

 来年期待できるじゃないか…

 来年か…

 来年、いや、もう既に12月29日の深夜に近いのだ、そしてわたし達の新チームは来年、来春、来週の1月3日から始動する。
 そしてそこには浩司の一人娘であり、今や全日本の期待のルーキーとなる美香が新加入してくるのだ。
 そしてその彼女による、新チーム全体のレベルアップの相乗効果は計り知れない程に大きいのである。

 来年は期待できる…

 逆にいえば、美香が入るから期待できる…なのである。

 そしてそれらの事全てが、わたし達二人の別れの理由であるのだから…

 さっきわたしは、約1ヶ月半振りに浩司の顔を見てすっかり心が折れてしまっていた。

 やっぱり…

 やっぱり…

 別れたくはない…

 久しぶりに顔を見た瞬間にそう想ってしまった。

 無理だ…

 これから先、浩司の居ない生活なんて…

 無理だ…

『来年期待できるじゃないか…』

 来年からは間違いなく大躍進できる手応えと、確信はある…

 だからそうなれば、わたしの心の、気持ちの、カラダの、昂ぶりと疼きは確実に増えるのが目に見えて分かる。

 誰が…

 浩司と別れたら、誰が…

 誰が、この昂ぶりと疼きを抑えて、押さえて、治えて、鎮めてくれるというのか…

 いったい誰が…

 バスケットの大躍進と、昂ぶりの疼きは比例するのだ…

 浩司の代わりなんていない、否、代わりなんて作りたくもない…

 やっぱり別れられない…や…

 わたしはベッドで涙を流し、嗚咽する。

 ダメ…

 無理…

 別れられない…

 別れたくない…

「ひっ、ひっ、ひっく……」

 わたしは、まるで子供の様にベッドで号泣する。

「ひっ、ひ、ひん、ひん、ひっ…く…」

 止めどなく涙が溢れ、嗚咽が止まらなかった…


「ひっ、ひん、ひっく………」

 約30分程泣いたであろうか…

 ようやく涙が止まった…

 時計を見ると午前1時が過ぎていた。

 かなり忙しそうだったからなぁ…

 わたしはシャワーを浴びようとベッドから起き上がる。

 え…

 なに…

 お腹が痛い…

 え…

 ま、まさか…





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