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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 30 別れの夜 ⑦

「ごめん遅くなった、忙しくてさ…」
 浩司は来宅するなり済まなそうな顔をしてそう言ってきた。

 時刻は午前3時…

「ううん…」
 わたしは首を振る。
 するとわたしの隣に座り、タバコに火を点けた。

「ふうぅ…」
 一息吸って煙を吐く。
 彼は、気まずい時、気まずい事、言い出しにくい等々がある時は、いつもこうしてまずはタバコを1本吸うのである。

 気まずい…

 それはそうである、今夜で約3年間続いたわたし達の関係を終わりにするのであるから。
 わたし達はカタチでは『不倫』ではあったのだが、何のトラブルもなく、わたしにとっては純愛に近い感覚の付き合いであった。
 それに彼の仕事柄、環境等、色々あるのだが、好きな時に何時でも、ほぼ時間の制限もなく逢う事が出来たし、逢瀬には全くといっていい程、障害もなかったのである。
 だから逆にわたしが、この『不倫』という刺激を求めて奥様に近づくというような関係でもあった位であったのだ。

 ただ、唯一の誤算…

 それはバスケット選手として日本有数の優秀な娘の存在であった。

 その存在さえなければ…

 わたしは一時期、別れの選択をしてから何度となく考え、悩んだ。
 だが、その娘の存在は、存在感は、わたしにとってマイナスではなく、ほぼ、ほぼ、プラスしかないのである。
 マイナスなのはこの『不倫』関係のみなのだ。

 だから、この別れの選択は、間違いではない…

 本当の心の底では納得していたのである。

 でも、別れるなんて嫌、イヤ、いや、なのだ…
 だが、これから先の色々な事を鑑みれば仕方がない事なのである。

 そして今夜で別れる…

 終わりにする…のであるのだが、わたしは未練タラタラなのだ。
 そして、この彼のタバコを吸う姿を見て、彼自身も本当は、いや、かなり複雑な想いをしているのが感じられてきていた。

 そんな彼のタバコに、少しだけ心が救われた気がしてくる…

 やはり浩司だって…

 別れたくはないのに決まっている…

 だから…

 だからこそ、この閃いたわたしの想いにも賛同してくれる…

 はずだ…



「ふうぅ…」
 そして浩司はタバコを消して、わたしを抱き寄せてきた。

 目は…

 目は、哀しみの色である…

「ね、ねぇ、あの…」

 わたしは彼より先に口を開く…
 

 
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