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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 38 別れの夜 ⑮

 浩司が違う女と…

 わたしじゃない女と…

 イヤ…

 それは…

 イヤだ…


「そんなの、イヤ…」
 そんな心の想いが思わず声に出てしまった。

 すると浩司は全てを分かっているかの様な顔をして、いや、多分、わたしの想いや考えている事なんて全て分かっているに違いないのだ。
 そしてそんな顔をし、目には哀しみの色を浮かべてわたしをグイッと抱き寄せてくる。

「……いいじゃないか…」
 と、囁いてきた。

「えっ?…」

 なにが、いいの?…

「……………なくたって…」
 そう呟いてキスをしてきたのである。

 えっ、今、なんて?…

 なんて言ったの?

「あっ、あぁ…」
 そのキスは激しかった。
 熱く、激しい、情熱の、いや、情愛の籠もったキスであった。

 あぁぁ…

 心が激しく揺さぶられてしまう…

 心が激しく震えてしまう…

 心が蕩けてしまう…

『…いいじゃないか…しなくたって…』
 多分、浩司はそう言ったのだ。

 恐らく、例え今夜、わたしが急に生理にならなかったとしても…

 浩司は、わたしを抱かなった…のだ、と思う。

 多分、恐らく、そう決意して、今夜、わたしの部屋を訪れたのに違いないのだ…

 わたしが…

 いや、わたしなんて…

 遥かに小さく、とても浩司には…

 浩司の大きさには…

 及ばない…のだ。

 きっと遡る事約1か月半前の、別れを切り出して、決めた夜から、いや、違うのだ…

 美香ちゃんがわたしを支持したあの夏休みの終わりの、あの瞬間から…

 既に浩司は、今夜のこのわたしとの最後の…

 別れの夜を想定していた…

 決意していたのであろう…



 わたし一人が浅はかなのだ…

 いや、浅はかなのであったのだ…

 やはり、わたしは馬鹿で、間抜けな女なのだ…

 わたしは浩司の熱いキスを受けながら、そう想い、考え、浅はかな自分を責め、後悔の念に陥っていたのである。

 思いの深さ…

 人としての大きさが違うのだ…


「うん……わかった…」

 わたし以上に浩司は苦しい、いや、苦しんでいるのだ。

 もうわかった…

 もう足掻かない…

 これ以上、彼を…

 浩司を…

 苦しめたくはない…







 
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