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雨の降る夜は傍にいて…
第6章 小夜時雨(さよしぐれ)…
 42 別れと喪失感

「あっ、あら、イヤだわ、彩ちゃんたら、何でそんな泣いてるのよぉ…」

「ええ、だってぇ、社長のぉ、その別れ話しがぁ、おまりにもぉ…」
 彩ちゃんは9年前の浩司との別れの夜から朝にかけての話しをわたしから聞きながら、涙を溢していたのである。
 わたしも彩ちゃんの聞き上手な感じに、ついつい心を許してしまい当時の状況や心情等を事細かに話してしまったのだ。

「もぉ、でも今、また、彼とは復活して復縁してるんだから、そこまで泣いてくれなくてもさぁ…」
 そうなのである、とりあえず今は彼、浩司とは復縁して既に2カ月付き合いをしているのだから、ここまで泣かなくても…とは思うのだが、それがまた彩ちゃんの良い処でもあるんだと思われるのである。

「でもさぁ、本当にあの別れの朝が最後になっちゃったのよね…」

 そう、わたしはあの別れの朝から以降の9年間、浩司とは逢わなかったのだ…

 あの朝が最後で彼の居るスポーツバーには行かなかったのだ…
 いや、なぜか行けなかったのである。
 別れてから暫くは浩司の存在の喪失感に苛まされて、何度も、何度も彼の居る筈のスポーツバーに行こうとは思ったのだが、なぜかギリギリで行かなかったし、行けなかったのだ。
 はっきりとした理由はわからない…
 だが、なぜか行けなかったのである。
 
 そして本当にあの朝が、完全に縁切りとなり、それ以降一切彼の顔も見なかったし、噂すらも耳には入ってこなかったし、敢えて入れようともしなかったのだ。

 ただ、その後、約6年間は浩司の存在の喪失感に苛まされたのである…

 喪失感…

 それは充実したバスケット指導の昂ぶりに比例して起こる心の昂ぶり、そして肉体的な昂ぶりと高ぶり、興奮等を鎮め、醒めさせてくれていた存在の喪失…

 精神的支柱としての存在の喪失…
 
 それらの喪失感がわたしの心にぽっかりと穴を開けたのである。

 そしてそれは公私の私…つまりプライベートなわたしの心を約6年間苦しめる事となったのだ。





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