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雨の降る夜は傍にいて…
第2章 春雷
 16 兄貴への憧憬

「でも…
 本当にあの頃のたーちゃんに瓜二つね…」
 そうゆり姉ちゃんは呟き、目から涙をこぼしてきたのだ。
「あ、ゆり姉ちゃん…」
「ご、ごめんなさい…
 驚きと、感動と、感激でつい…」
 そう呟いた。

「わたしもあの後さぁ、色々あって、最近、凄く涙脆くなっちゃってぇ…」
 そう呟きながら、泣き笑いの顔をしてきたのだ。
 そのゆり姉ちゃんの様子を見て思わず抱き締めたい衝動が心に湧いてきたのであるが、もし誰かに見られてしまうという万が一の恐れがあって必死に自制をした。

 だがおそらくあの時抱きしめたとしても、ゆり姉ちゃんは逃げなかったであろう…

 とりあえず第一作戦は成功だ。
 ゆり姉ちゃんの心の隙間に入る事に成功したはずでなのである。

 よし、これからだ、焦らずに、じっくりとゆり姉ちゃんの心の隙間に更に深く入っていくんだ…

「じゃあ、ゆっくり休んでなさい…」
 ゆり姉ちゃんはそう云って保健室を出ていった。

 よし、とりあえず、第一作戦は成功だ…

 とりあえず夕方の練習に備えて昼寝でもするか…

 

 俺は7年前の交通事故による突然の兄貴の死亡という現実に悲しみ、落ち込み続けた母親が新たな希望を持ち、前向きに進めるようにと、新たに自分に対して目を向けさせ、そしてその期待に応えるようにと必死に野球と勉強に打ち込んだ。
 いや、打ち込んできている。

 またそれは幼いながらも当時持っていた、兄貴に対する憧憬の想いを乗り越えていく為でもあったのだ。
 そして今、亡くなった兄貴と同じ年齢となり、同じ高校に入り、同じ野球部に所属をして結果、勉強も特進クラスに入れて、野球部でもレギュラーを獲れて中心選手として活躍し、当時の兄貴と比較しても十分に乗り越えているといえたのである。

 だが、当時の兄貴を完全に乗り越えられているとはいえない事が一つだけあったのだ。

 そして、それをクリアさえできれば、完全に兄貴を乗り越えられ、新たな自分の第一歩を踏み出せるといえるんだ…
 と、そう思っている事がある。

 それは…

 当時の兄貴にとってのゆり姉ちゃん的な存在である。
 その存在感の大きさ、必要性は、兄貴に近づき、乗り越えた今だからこそ、より切実に、重要だと分かってきたのである。

 いや、必要なのである…







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