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雨の降る夜は傍にいて…
第3章 9月の雨(September Rain)
 4 得意技… 

「そういえばぁ、あのホテルのバーで出会った素敵なオジサマとはぁ、あの後どうなってんですかぁ…」
 と、この前の台風の夜にホテルで出会った男の話しを訊いてきた…

「ああ、あの人か…」

 あの進藤進さんか…

「あの後は二、三回連絡は取ってるけど、彼も仕事忙しいらしくてさ、全国飛び回っているらしく、あれ以来は逢ってないわ…」
 
「へえぇ、何の仕事してるんでしたっけぇ…」

「うんとねぇ、まあまあの設計士らしい…」

「ふうん、でもぉ、そんな忙しい人なんじゃぁ、社長のぉ、いつもの得意技のぉ…」

「えっ、得意技って…」
 なんだっけ…

「アレですよぉ、自然消滅ぅ…」

「あつ、アレかぁ…」 
 彩ちゃんの言葉にドキッとしてしまう。

 確かにわたしはほぼ毎回のように忙しいのを理由にして、自然消滅という感じで、簡単にいえば、バックレるのであった。
 
 確かに得意技と云えるかもしれない…

 わたしは基本的に自分の逢いたい時に、例えば、こんな大型低気圧の悪戯のような古傷や、手術痕の痛みからの情緒不安定気味な自律神経の疼きによる出逢いが多い、いや、最近は彩ちゃんが云うような雨の日の男漁り的な出逢いが殆どであるのだ。
 
 だから一夜だけでもよいからその雨の降る夜に傍にいてくれて、その時に心を満たして、抱いてくれればそれだけでよいのであった。

 別に彼氏が、男が欲しい訳ではない…


 昔に起きたある出来事以来…

 わたしには男の、いや、彼氏の存在は必要はなく、欲しくもない。
 ただ、こんな不安定な雨の夜に傍にいてくれるだけでよいのだ。
 極端な話しカラダの疼きは、わたしには自慰行為で十分鎮められるのである。
 
 だが、この心の疼きは鎮まらない…

 だからわたしはこんな雨の夜に彷徨うのである。



 
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