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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「何を言われたかわかりませんがとんでもない醜態を晒してしまい申し訳ありません、今後は二度とこのようなことがないように努めてまいりますので本日から新たに宜しくお願いします」
深く頭を下げ退室しようとした。
それを後ろから手を引かれ振り向くと同時に引き寄せられるなんて。
「ごめん、彼に言われたけど俺もこの気持ちが何なのか知りたくなった」
「ちょ、副社長?離してください」
「すまん、抑えきれなくて……悪かった」
初めて見た、真っ赤な副社長。
どうして良いかわからない子供のような仕草。
「このような行為はルールに反します、続くようなら契約不履行と今後一切の契約廃止処分になりますが」
「そ、それだけは勘弁してくれ…!もう何もしない!頼むから傍で俺を支えてくれ…!」
なんだなんだ、このプロポーズみたいなセリフは。
動揺など一切せずにニコッと笑う。
「こちらこそ、半年間精一杯務めさせて頂きますね」
それからというもの、ちゃんとルールに則り真面目に関係を築いていた。
時々目を潤ませて見つめられているのには知らないフリをするのが面倒くさいけど。
というより、隠すのが下手な人だ。
これでは私以外の人間にも安易に知れ渡ってしまう。
ナンバー2がこんなんでどうするの。
しっかり尻を叩かなければ。
どっさりと目を通してもらう書類をデスクに積んだ。
溜め息つかないで、私がつきたいくらい。
「コレ、午前中に全部サインしてくださいね?その後は午後からの会議資料お持ち致します」
「あっ、藤堂さん!」
「はい」
「その、お願いをひとつ聞いてもらいたいんだが」
「はい、何でしょう?」
「絶対に何もしないから1日のどこかで10秒間、俺を見て喝を入れてくれないか?」
「はい!?喝…!?」
「うん、気持ちの面でメリハリというかやる気を起こして欲しいというか、とにかく、藤堂さんに励ましてもらえたら何でもやれそうな気がするんだ、業務のうちの10秒だけ、俺を見て欲しい」