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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
一瞬、呆気にとられたがよくよく考えると可笑しくなってきた。
ナンバー2ともあろうお人が自分だけを見つめて喝を入れてくれって何とも滑稽過ぎる。
言ったそばから真っ赤だし。
“待て”を強いられた大型犬みたい。
この人、こんなとこばかり見せてくる。
「ガキだって思ってるだろ?仕方ないさ、実際に俺は親父について回る金魚のフンみたいなもんだし……藤堂さんが居なかったらとっくに逃げ出してるのかもな」
わざと弱々しいところを見せて何を期待しているの?
業務のうちだからと言われれば出来る限り手は尽くしますけども。
だから想像する斜め上にいきたいの。
驚いてる顔も想定内だから。
一歩前へ進んで顔を挟んで上げさせた。
俯いている視線をバチッと合わせる。
「副社長、いや、織部裕典(オリベユウスケ)さん」と初めて名前で呼ぶとクワッと目を見開いてくる。
「あなたは金魚のフンなんかじゃない、まだ根底に眠る力に気付いてないだけです、ご自身も周りの方々も……大丈夫、私が認めさせてあげます、その為に傍に就かせたんですよね?少なくとも誰より現場が好きじゃないですか、視察同行していて充分伝わってきましたよ?」
「ん…………うん」
「評価に飲まれないでください、勿体ないです、せっかく芽が出てきたあなたは有能なのですから、本当、どうしようもない人なら私から願い下げするところだったんですけど…」
「えっ!?」
「嘘です、冗談ですよ、ほら、自信持ってください、10秒経ちましたよ?こんな感じで良いんですか?毎日」
「うん、ありがとう、元気出た」
「それは何よりです、もう少ししたら午後からの会議資料お持ちしますね」
「うん、うん……うん」
「え……副社長?何で泣くんですか」
「ごめん、そんなつもりじゃ、あれ?どうしちゃったんだろ…」
そんなに抱えきれないようなものを抱えてきたのだろうか。
静かに肩を震わせ声を押し殺し泣いているのだ。
胸を貸すのは違う気がしたので。
クルリと背を向けて「どうぞ」と言った。
「え……?」
「背中、貸します、180秒だけ」