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甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「ハハハ、3分か……」と力なく笑った後、コツンと頭を背中に預けてきた。
秘書と言えど、仕事する上で最も大切なのは上司との信頼関係である…と思う。
これは、その過程なんだ。
ただ何も言わず同じ空間で一緒に居るだけ。
それ以上は出来ないけどギリギリのラインを踏んだり踏まなかったり。
午後からはまるで嘘のように仕事に精を出していた。
最初出逢った頃はちょっと扱いにくい人なのかなって思ったけど、今は全然違う。
良い意味でチョロい。
その日からちょっとした、副社長と私だけの秘密の10秒間が始まった。
「今良い?」と言われれば見つめ合う。
本当、毎日どこかしら褒めて後は尻尾振ってご機嫌で仕事してる。
「5分後で良いですか?」と答えると我儘気ままなので不貞腐れてしまい後々面倒くさい。
こっちも仕事抱えてるの知ってるのに。
「今日のネクタイ似合ってます」
「良かった、褒めて欲しくて色々迷ったけどこっちにして正解だったな」
「何着けてもお似合いですよ?」
「今度一緒に買い物しない?選んでよ」
「え…?」
「あっ……ごめん、ダメだったね、こういうの」
頭を掻きながら背を向ける。
こんなくだりを何回か繰り返して微妙な空気になる。
気付いてくれて胸を撫で下ろすけど、あまりこちらから何でもダメダメ言うのは気が引けるので。
秘書課は割と皆さん仲が良く、働きやすい環境だ。
派遣で来たポッと出の私でも快く迎えてくれて感謝している。
秘書につく前から顔見知りだったことも大きい。
前社長にかなり気に入られてたので、よくプレゼン代行やらされてたな。
私、どれだけこの会社の社運握らされてたんだろう。
「藤堂さんってどこの香水使ってるんですか?」と同じ秘書課で同い年の女の子が聞いてくる。
滅相もない、香水など一切使わない主義。
どんなクライアント相手でも失礼があってはならないからだ。
「え、使ってませんけど……」
匂います?とは聞けなかった。
え、私、匂うんだろうか。
「えっ!じゃ、もうこれそのものが藤堂さんの匂いなんですか?フェロモン?」