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甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
翌日、お母様に会えた。
「あの、面会は親族だけだとわかってるんですけど、どうしても会いたくて……会わせて頂けないでしょうか?」
目を丸くして驚かれたけど、フッと笑った目がまたジロウに似ている。
「大事な人が居るって聞いてたけどそれって椿さんで合ってる?あの子、迷惑かけてなかったかしら?お付き合いしてるのよね?そりゃ会いたいわよね、ごめんなさいね、気が回らなくて……うん、一緒に行きましょう、面会名簿、お姉ちゃんの名前書いてくれる?」
「はい、ありがとうございます」
そこで初めて知る、お姉さんの名前。
小川麗華さん。
お母様は小川佐智江さんだった。
名簿に書いてICUの面会へ訪れた。
奥の仕切られた空間で、ベットを起こしたままもたれかかる人影。
ようやく会えた奇跡。
「あ………」
ベットの上で2回頷いたジロウは両腕、首に透明フィルムを貼られた上から包帯を巻かれていて、顔は赤く、軟膏のような薬でベタベタに塗られていた。
「ちゃんと挨拶してくれたよ、心配掛けたんだから謝っときな」とお母様が言ってくださるも、目が合っただけでもう胸がいっぱいで、ヤバい……泣きそう。
「ごめんなさい、椿さん」
声も出すの苦しそう。
首を振るだけで精一杯。
生きてくれててありがとう。
痛々しい傷跡と包帯。
やっと確認出来た。
生きてくれてるジロウが見れた。
大丈夫、こんなの、ジロウの辛さに比べたら大した事じゃない。
火傷を負った今は痛み止めと解熱剤。
熱は常に38度から39度。
意識はあるものの薬のせいか朦朧としている。
この時話せたのはせいぜい一言二言。
すぐに看護師がやって来て傷口の消毒や点滴交換をしていた。
「すみません」ばかり言わないで。
誰も責めたりしないよ。
寧ろ誇らしい。
「もう謝るのはやめて?助かった事に感謝していこう?」
「はい……」
お母様の前だからか、敬語。
優しい視線がまたちゃんと自分にむけられている事に泣きそうになる。
ダメ、泣いたら。
堪えなきゃ。
夢と同様、胸がいっぱいでほとんど何も言えなかった。