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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第1章 出会い
「…物語?」
…なんて悠長でお綺麗な表現だ。
俺の過去なんて、そんな綺麗な言葉に相応しくないのに。
狭霧はそっと口唇を歪める。
その気持ちを見抜いたかのように、北白川伯爵は励ますように微笑み、長い両手をしなやかに広げた。
「…ああ、そうだ。
人の人生は儚いほんの一編の物語のようなものだ。
…特にここパリには、そんな儚い物語がよく似合う…」
「…物語…か…」
…さすがはお貴族様だ。
どんな時にも優雅で、おおらかで、現実離れしていて…。
けれどそのおおらかさに狭霧は今、確かに少し救われている。
不思議に、この男の持つ優雅さと寛大さと…そして静かな優しさのようなものに…。
「…お上品なお貴族様のあんたには随分酷い物語だけど…いいのか?」
北白川は静かに頷いた。
…その端正な瞳は、決して興味本位の眼差しではなく、穏やかな真摯さを帯びた色をしていた。
「ああ、構わないよ」
「…それから…少し長くなるかもしれない…。
なぜなら、俺が…俺たちがなぜパリに来たかを説明しなくちゃならないから」
「…夜は長い。
ゆっくりと君の物語を聴かせてくれ」
今度は、やや茶目っけのある仕草で目くばせをしてみせた。
だから狭霧は口を開いた。
…誰にも語ったことのない、あの物語を…。
唯一無二の愛を失った、あの夜を語るために。
…なんて悠長でお綺麗な表現だ。
俺の過去なんて、そんな綺麗な言葉に相応しくないのに。
狭霧はそっと口唇を歪める。
その気持ちを見抜いたかのように、北白川伯爵は励ますように微笑み、長い両手をしなやかに広げた。
「…ああ、そうだ。
人の人生は儚いほんの一編の物語のようなものだ。
…特にここパリには、そんな儚い物語がよく似合う…」
「…物語…か…」
…さすがはお貴族様だ。
どんな時にも優雅で、おおらかで、現実離れしていて…。
けれどそのおおらかさに狭霧は今、確かに少し救われている。
不思議に、この男の持つ優雅さと寛大さと…そして静かな優しさのようなものに…。
「…お上品なお貴族様のあんたには随分酷い物語だけど…いいのか?」
北白川は静かに頷いた。
…その端正な瞳は、決して興味本位の眼差しではなく、穏やかな真摯さを帯びた色をしていた。
「ああ、構わないよ」
「…それから…少し長くなるかもしれない…。
なぜなら、俺が…俺たちがなぜパリに来たかを説明しなくちゃならないから」
「…夜は長い。
ゆっくりと君の物語を聴かせてくれ」
今度は、やや茶目っけのある仕草で目くばせをしてみせた。
だから狭霧は口を開いた。
…誰にも語ったことのない、あの物語を…。
唯一無二の愛を失った、あの夜を語るために。