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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
…狭霧が山科和彦に初めて出会ったのは、神田にある高名な西洋画家が主催する画塾であった。

狭霧は高校卒業後、大学に進学したものの学業には身が入らず、夜遊び三昧の日々を送っていた。
飛び抜けて美しい容姿、巧みな話術、実家は金回りのよい商家…。
狭霧の周りにはいわゆる不良のどら息子たちが多数集まるようになった。
それに業を煮やした父親と度々衝突するようになり、狭霧に対してことのほか気を使う母親が父親を宥めるために策を労したのだ。

「…狭霧さん…。差し出がましいようですけれど、何かお好きなことに打ち込んだらいかがでしょうか?
狭霧さんは絵がとてもお上手ですもの。
画塾に通われるのはいかがかしら?
西洋画の大家の深圳先生の画塾に、口を聞いて下さるお客様がいらっしゃるのですよ。
…狭霧さんが、お嫌でなかったら…」

狭霧はまるで下女のように謙る母親…さな絵を振り返る。
…さな絵は狭霧の本当の母親ではない。
狭霧の幼少期に亡くなった実母のあと数年して、父親が再婚したのだった。
さな絵は優しい女だった。
再婚後すぐに父親との間に男の子が産まれたが、どんなに忙しくても狭霧の世話を第一とした。
贈りものがあるとする。
さな絵は一番良いものを狭霧に渡し、我が子…千雪には二番目に良いものを渡した。
決して千雪を贔屓したりはしなかった。
どんな場面でも狭霧を優遇した。

それが狭霧には鬱陶しかった。
…自分の子が一番可愛いに決まっているじゃないか。
お体裁屋もすぎると嫌味だ。
そう思い、自分からさな絵に馴染もうとは決してしなかった。

けれど、弟の千雪は可愛かった。
生まれた時から実の兄と信じて、狭霧の跡をひたすらついて回るのに根負けしたのかもしれないが…。
千雪の少女のように可憐な貌は狭霧の好みであったし、素直な性格も可愛らしかったのだ。

「…兄さん…。
兄さんの絵、僕も見たいよ…」
潤んだ瞳で見つめられると、否とは言えなかった。

…仕方ないな…。
狭霧は苦笑して千雪のさらさらの髪を撫でた。
「…分かりました。
ユキのために通いますよ」
さな絵に嫌味で言ったのに、さな絵は千雪に良く似た可憐な貌を嬉しそうに綻ばせた。

「ありがとうございます!狭霧さん。
良かったわねえ。千雪。お兄様の絵、早く見たいわね」
我が事のように千雪と喜ぶさな絵を、狭霧は密かに軽蔑すらしたのだった。




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