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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第5章 従者と執事見習い〜従者の恋〜
テーブルに着いていた使用人たちから、遠慮勝ちな騒めきが起こる。
「…異母兄弟…。
…つまりは…」
…礼也の両親、縣男爵夫妻が別居していることは階下の使用人たちも周知の事実だった。
つまり、その異母兄弟というのは縣男爵が外で儲けた…愛人の子どもということだろう。
皆は一瞬で察知した。
そんな空気を糺すように、橘は冷静に釘を刺した。
「余計な詮索はしないでよろしい。
我々がなすべきことは、礼節と敬意を尽くした接遇だけということを肝に銘じるのだ」
「はい。橘さん」
皆は服従と了解の返事を返した。
「さあ、仕事だ。
今日は東翼の客間とダイニングの掃除を徹底的に行う。
手が空いた者たちから銀食器の磨き、それから旦那様の書庫の整理を頼む。
それらは私の指示を待ってくれ」
三々五々に散ってゆく下僕たちやメイドを尻目に、狭霧は立ち上がる月城を呼び止める。
「月城くん。君、縣様の弟君のこと知っていた?」
月城は眼鏡の奥の端正な瞳を瞬かせた。
「…礼也様から以前に少しだけ…。
身寄りのない異母兄弟を家に引き取って今、育てている…と嬉しそうに仰っておられました…」
「…へえ…」
…そう言えば、先日のお茶会で礼也と伯爵がそんなことを話していたような気もする。
あの時は、山科夫人の一件でそれどころではなく、すっかり忘れていたが…。
「…暁様と仰るのだそうです。
思わず眼を奪われてしまうような綺麗な少年だよ…と、礼也様は自慢げに話しておられました」
「それは凄いな。
ぜひ拝見させていただきたい。
綺麗な男の子は大好きだ」
にっこり笑う狭霧に、月城は困ったように眉を顰め、嗜める。
「…狭霧さん。
暁様に絶対に手を出したりなさらないで下さいね」
「出す訳ないじゃない。
…俺には年端もいかない子どもを愛でる趣味はない。
手を出すなら…」
月城の肩に手を回し、そっとその耳朶にわざと色っぽく囁く。
「…君みたいに美しくて純粋で賢くて…けれどどこか寂しげな青年がいいな…」
「…異母兄弟…。
…つまりは…」
…礼也の両親、縣男爵夫妻が別居していることは階下の使用人たちも周知の事実だった。
つまり、その異母兄弟というのは縣男爵が外で儲けた…愛人の子どもということだろう。
皆は一瞬で察知した。
そんな空気を糺すように、橘は冷静に釘を刺した。
「余計な詮索はしないでよろしい。
我々がなすべきことは、礼節と敬意を尽くした接遇だけということを肝に銘じるのだ」
「はい。橘さん」
皆は服従と了解の返事を返した。
「さあ、仕事だ。
今日は東翼の客間とダイニングの掃除を徹底的に行う。
手が空いた者たちから銀食器の磨き、それから旦那様の書庫の整理を頼む。
それらは私の指示を待ってくれ」
三々五々に散ってゆく下僕たちやメイドを尻目に、狭霧は立ち上がる月城を呼び止める。
「月城くん。君、縣様の弟君のこと知っていた?」
月城は眼鏡の奥の端正な瞳を瞬かせた。
「…礼也様から以前に少しだけ…。
身寄りのない異母兄弟を家に引き取って今、育てている…と嬉しそうに仰っておられました…」
「…へえ…」
…そう言えば、先日のお茶会で礼也と伯爵がそんなことを話していたような気もする。
あの時は、山科夫人の一件でそれどころではなく、すっかり忘れていたが…。
「…暁様と仰るのだそうです。
思わず眼を奪われてしまうような綺麗な少年だよ…と、礼也様は自慢げに話しておられました」
「それは凄いな。
ぜひ拝見させていただきたい。
綺麗な男の子は大好きだ」
にっこり笑う狭霧に、月城は困ったように眉を顰め、嗜める。
「…狭霧さん。
暁様に絶対に手を出したりなさらないで下さいね」
「出す訳ないじゃない。
…俺には年端もいかない子どもを愛でる趣味はない。
手を出すなら…」
月城の肩に手を回し、そっとその耳朶にわざと色っぽく囁く。
「…君みたいに美しくて純粋で賢くて…けれどどこか寂しげな青年がいいな…」