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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
…その美しい少年を月城が初めて見たのは、まだ朝夕は花冷えのする春の日のことだった。

出迎えの為に車寄せに立った月城は、黒塗りのロールスロイスから縣礼也と共に降り立ったその少年の貌を見て、思わず息を呑んだ。

…美しい…。
なんて…なんて美しい少年なのだろう…。

まるで魅入られたかのように、その少年の貌を見つめた。

…十四歳と聞いていたが、年よりはやや小柄で、驚くほどに華奢な体つきをしていた。
…服装は品の良いネイビーブルーのジャケットにふんわりとした白絹のブラウス…胸元を蝶結びしているのが如何にもこの美しく優美な少年に良く似合っていた…。

艶やかな髪は、春の陽射しに透け琥珀色に輝いていた。
高価な白磁のように白くきめ細やかな肌、瓜実貌の優しい輪郭、弓月型の眉、すんなりとした形の良い鼻梁、今まさに咲き染めた桜の花弁の色の口唇…。
わけても眼を引いたのは、その切れ長の大きな美しい瞳であった。
…黒眼勝ちのその瞳はしっとりと濡れ、嫋々とした色香を湛えていたのだ。

殊更派手やかな容姿ではないのに、いきなり心を掴まれるような美貌…そして、微かに薄幸そうな寂しげな雰囲気は、見る人の庇護欲を掻き立てるような…そんな少年であった。



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