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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
「…すごい美少年だな…暁様」
隣に立つ下僕長の大が月城にそっと囁いた。

…暁様。
縣暁は、縣礼也の腹違いの弟であると、執事の橘から聞いていた。
礼也の父親、縣男爵のかつての愛人が亡くなり、身寄りが無くなった少年を礼也が屋敷に引き取り、我が子のように大切に育てていると言うのだ。

「礼也様には余り似ていないな。 
…やっぱり愛人のお子だからかな?
随分色っぽい少年じゃないか」

「…大さん」
あからさまに好奇心剥き出しの大を、さり気なく窘める。

橘が軽い咳払いをし、大を睨め付けた。
大は肩を竦め、口を噤んだ。

洒落た春物のスーツ姿の礼也が、優しく弟を振り返る。
「…暁。さあ、おいで」
大きな手を差し出し、暁の手を取った。

月城は少し意外に思った。
…十四歳の少年に対してにしては、少々過保護な気がしたからだ。

暁は差し出された手をはにかんだように…けれど、その美しい瞳をきらきらと輝かせながら、しっかりと握り締めた。
そうして、透明な美しい声で答える。
「…はい。兄さん…」

礼也は百八十センチをゆうに超える長身だ。
対して暁は同年代の少年よりもかなり華奢で小造りな体つきをしている。
成熟した逞しい体躯をした礼也に手を引かれている様は、如何にも大切にされ、とても溺愛されているような印象を周囲に与えた。
けれどそれは、大変微笑ましく見える光景であった。
礼也の完全無欠な紳士ぶりは使用人たちの間でも周知の事実であった。
主人たちだけでなく、使用人たちに対しても丁寧で親切に接する。
それは貴族の青年では大層珍しいことであった。
だからこの屋敷で礼也の人気は絶大なものであった。
その礼也が父親の愛人の息子・異母兄弟のこの少年をこの上なく優しく扱っていることは、彼がやはり誰よりも慈悲深く、温かな人柄であることを改めて皆に感じ取らせたのだった。






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