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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
だからと言って礼也は、朴念仁ではない。
社交界では何人も彼の恋人と噂される人物は存在するらしい。
…未婚の令嬢とは絶対に噂にならない。
婚約者の梨央を慮ってであろう。
名前が上がるのは、うら若き未亡人や華やかな酸いも甘いもの噛み分けた恋多き貴婦人…ラブアフェアくらいではスキャンダルにならないような、遊び心が分かる婦人たちだ。
礼也の遊び方は綺麗で洗練されているので、どの女性とも揉めたことはない。
恋が終わっても友人として続くような…誠実な魅力が、礼也にはあるのだった。

暁はまだ少年だから、本格的な夜会に参加したことはない。
…けれど、たまさか屋敷で開かれる夜会に、最初の方だけの参加は許されていた。
社交に慣れるためだ。

そんなとき、暁はうっかり目撃することがあるのだ。
仄暗い階段室や、洋燈の灯りだけが頼りの薄暗い庭園で、愛を囁く礼也の甘い声と…それに続く女の蕩ける蜜のような吐息を…。
そして、優雅な絹擦れの音…。

見てはいけない。
部屋に戻らなくては…と思いながらも、身体の芯が熱く痺れるような感覚に襲われ、動くこともできずに立ち竦む。

「…こんなところで欲しがって…。
嫌らしい方だ…。
…ご主人がもう探しにみえますよ…」
鷹揚な笑いを含んだ礼也の声はまた、聴いたことがないほどに淫らで…美しいのだった。



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