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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第6章 従者と執事見習い 〜執事見習いの恋〜
…兄さんは優しい。
暁は、何度も思う。
自分に対してだけではない。
誰に対してでも思いやり深く、優しいのだ。

その優しさは、天性のものなのだろう。
礼也は、相手の身分や社会的地位によって態度を変えるようなことは、絶対にしなかった。
たから、彼の周りには常に崇拝者たちが取り巻いていた。

屋敷の使用人たち…特にメイドたちは密かに礼也を慕い、中には本気で恋をしている者もいた。
厳格な執事や家政婦の眼があるので、おいそれとは邪まな振る舞いは出来ないでいるが、隙あらば礼也に告白しようと熱い想いを滾らせているメイドは何人もいた。
けれど、礼也は決してそれらの者に特別な言葉を返したりはしない。
無粋な真似は好かないので冷たく拒否はしないが、勘違いさせるような甘い言葉を掛けたりはしない。
常に穏やかに、冷静に距離を持って対応する。

父親の縣男爵や、初代男爵の祖父はかなりな好色家だった。
メイドに手を付け、庶子を儲けた例など両手の数でも足りないほどだった。
現に暁の母親は屋敷で下働きのメイドとして勤めている時に縣男爵に言い寄られ、暁を孕った。

祖父や父親の好色さに礼也は厭気がさしていたらしい。
己れは決して屋敷の使用人に手を出すような振る舞いはしないと、少年時代から心に決めていたようだ。

それは、美男子で聡明で優しい完璧な若き主人を恋い慕うメイドたちに悲嘆のため息を吐かせたのである。

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