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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
それから狭霧はほどなくして、父親からの手紙を受け取った。
そこには驚くべき内容が記されていた。

『…さな絵が亡くなった。
お前の醜聞の為に家業は傾き、従業員を大勢解雇しなくてはならなくなった。
その皺寄せはすべて、さな絵に行ってしまった。
元々身体が弱いさな絵は無理を押して、一日中得意先を訪ね回り、頭を下げ続けた。
疲労が溜まり、折悪く流感に罹りそのままあっけなく亡くなってしまった。
お前のせいにしたくはないが、私にはお前の貌をまともに見る気力はもはや残ってはいない。
上海行きの切符や生活費を送る。
今度こそ上海の弟のところに行き、二度と日本には戻ってこないでくれ』
…と。

狭霧は罪悪感に打ちのめされ、座り込む。
…自分のせいだ。
自分のせいでさな絵は亡くなり、ユキから母親を奪ってしまった。
自分は何のために生きているのだ。
最愛の人を亡くし、さな絵は自分のせいで亡くなった。
代々続いた家業を存続の危機に晒した。

和彦のいないこの巴里で、この世界で、自分はどうやって希望を持って生きていけば良いのか…。

…和彦…!和彦…!

狭霧は胸に付けたロケットペンダントを握りしめる。
…ペンダントは和彦の死後、クローゼットの中から見つかった。
きちんと包装されたそれは、恐らくは狭霧へのクリスマスプレゼントだったのだろう。
狭霧は、骨壷が和彦の両親の手に渡る前に密かに遺灰を盗み、ロケットの中に入れた。
…これでずっと一緒に居られる…。
安堵と哀しみと悔しさと…そして何よりも恋しさが一気に押し寄せ、狭霧は和彦を喪ったあと、初めて声を放って泣いたのだ。







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