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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第2章 狭霧の告白
女中に付き添われ、教会を出た妻を見送りながら、山科子爵は硬い表情のまま、狭霧に告げた。

『私は君がすべて悪いとは思わない。
…いや、むしろ和彦が君に傾倒したのだろう。
…和彦に君のように美しい青年は麻薬のようなものだ』
『…子爵…』

山科子爵は、眉間を揉み込むようにしてため息を吐いた。
『君に騙されたとは思わないが、君の魔に魅入られたのだろう。
和彦のように世間知らずで大人しい青年には、君は毒が強すぎたのだ』
…他人にはそう見えるのだろう。
ましてや父親から見たら、自分は忌まわしい不潔な存在に違いない。

黙り込む狭霧に、山科子爵は淡々と語る。
『…日本では大騒ぎだよ。
我が家は曲がりなりにも貴族だ。
しかも私は法曹界出身だ。
新聞に和彦の事件は大々的に報じられた。
パリの安酒場で殺され…おまけに男と同棲しているとの記事はゴシップ誌に出てしまったのだ。
…子爵家の長男が日本橋の呉服屋の息子と愛の逃避行…現代の浄瑠璃心中かソープオペラかと面白おかしく書き立てられたのだよ』

狭霧は顔色を変えた。
『…え…!?』
『…君の家も今、醜聞の渦中にある。
手紙は来ていないのか?
野次馬が店に落書きしたり、嫌がらせの脅迫状まで届くそうだよ。
店は今、休業しているそうだ。
…君は飛んだ親不孝をしたものだな』
それは嫌味でなく、正直な気持ちの吐露に見えた。 

…まさか、日本に和彦の事件が伝わるなんて思ってもみなかった。
ましてや、和彦は被害者なのに。
また、自分のことで、実家に累が及ぶなど考えだにしなかった。
父、義母…そして…
…ユキは大丈夫だろうか。
ユキの将来を台無しにしてしまったのではないだろうか。
可愛い弟の面影に、胸が潰れそうに苦しくなる。

狭霧の蒼ざめた美しい貌を見て、山科子爵は一瞬痛ましげな表情をした。
けれど、冷淡な表情を崩さずに告げた。

『我々は和彦の遺灰を持って明日パリを発つ。
君も早々にここを引き上げなさい。
旅費なら工面しよう。
…我々との永遠の手切金だと思ってくれ』

狭霧は毅然とした態度で答えた。

『それには及びません。
ご迷惑をおかけいたしました。
心よりお詫び申し上げます。
…もうお会いすることはないでしょう。
失礼いたします』
深々と頭を下げ、そのまま教会を後にしたのだった。





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