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おせっせのお作法
第1章 私の方が強い
「今日すごく気持ちがよかった」
「そうだね。すごく、気持ちよかった」
 一呼吸置いてからそういって、私を抱きしめてくれた。
 彼の体温は私の幸せだ。
 彼の素肌から伝わる熱は、いつも私を安心させて、嫌なことも全部忘れさせてくれる。
「舐めてくれたのも、上でしてくれたのも、嬉しかった」
「されたいかわからなかったから、して嫌がられたりしたらどうしようと思ってた。している時に気まずくなりたくないし、自分から舐めなかった。上になるとすぐイッちゃうし。それって情けないじゃん」
 思い返してみれば、今までセックスの回数くらいしか話し合ったことがなかった。
 大事なことはなんとなく話さなかった。いや、避けてきた。
 性欲が私よりもないことはわかっていたから、したいことを話して引かれることを怖がっていた。だから、彼も悩んでいるなんて思ってもいなかった。
「情けなくなんてないよ。私の中が気持ちよかったんだって嬉しくなる。だから、これからもして欲しい」
「わかった」
 彼の返事を聞き考えていた。もう一つ頼んでいいかなと。
「もう一つこれからして欲しいことがあるんだけど」
 意を決して口にすると、彼が耳に口を寄せてなに? と聞いた。
「たまには、しようとかってちゃんと誘われたいの。求められてる実感が欲しい」
 思い切っていった言葉が受け入れられるのかどうか、少しの沈黙があまりにも長く感じられた。
「恥ずかしいけど、努力する」
 ぼそぼそといった彼。その言葉が受け入れてもらえたことが嬉しくて、彼をぎゅーっと抱きしめた。

 あれから一週間がたった。
 彼の家でゴロゴロと布団に転がってスマホをいじっていると、後ろから抱きすくめられた。
「したいな……」
 彼がそうぼそりといった気がして振り返って顔を見ると、恥ずかしそうにそっぽを向かれてしまった。
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