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春雷に君
第3章 思惑どおり
ぽろぽろと涙をこぼす私に驚いた市崎くんは、慌てて私を浴室へ連れて行き、シャワーで体をきれいにしてくれた。
ついでに顔も洗ってくれようとしたけど、さすがにそれは断って自分で化粧ごと洗い落とす。
浴室から出ると、待ち構えていた市崎くんによって体を拭きあげられ、上下スウェットに包まれる。
一度リビングに行き、冷たい水をもらってのどを潤すとだいぶ落ちついた。
それを確認した市崎くんは寝室へ向かい、防水シーツとやらを回収して洗濯機へ放り投げると再び寝室へ。
きっと予備のシーツを敷きなおしてるんだろうな。と思いながら寝室へ向かうと、ちょうど敷き終えたらしい市崎くんが私に気づいて「……寝る?」と遠慮がちに聞いてきた。
うなずいてベッドにもぐり込むと市崎くんも入ってきてそっと抱きしめられた。
「……泣かせてごめん」
消え入りそうな声で言うから、すぐに首を横に振る。
「あれは、泣いたっていうか……勝手に出た感じだから謝らないで」
「そう……なの? いやだったとかじゃなくて?」
「うん、違う。……いやじゃなかった……です」
照れ隠しで語尾を敬語にしてしまう。
数秒の沈黙のあと、市崎くんが「そっか……」とホッとしたように息を吐いた。
抱きしめられて市崎くんの体温がじかに伝わってきて急激な眠気に襲われる。
市崎くんが何か言っている気がするけど、まぶたが重くて目を開けられないし鼓膜も市崎くんの言葉を跳ね返していく。
――人の体温っていいなぁ……。
元カレとお別れして数年。
セフレの2人とはお泊まりなんてしたことないし、誰かとこんなふうに体をくっつけて眠るなんて久しぶりで、少し窮屈だけど……本来はひとりで寝たい派だけど……たまにはいいかもしれない。
そんなことを考えながら、市崎くんの鎖骨の下あたりにおでこをすりすりさせながら「おやすみ……」とささやく。
市崎くんに聞こえてたかわからないけど、そっと頭を撫でられたからおそらく聞こえたんだと思う。
それがわかってから私は夢の中へ沈んでいった。