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春雷に君
第4章 清算
電話をかけると、市崎くんはなかなか出なかった。
忙しいのかな? と電話を切って、とりあえず駅に向かって歩いていると、しばらくして折り返しがきた。
「もしも――」
「ごめんっ!」
勢いよく謝ってくる市崎くんに戸惑う。
「えっ……なに、どうしたの?」
「いや、電話に出られなかったから……」
――え。それだけ?
「いやいや、全然気にしてないよ。出られないときもあるでしょ。もし……私が電話に出られなかったら、市崎くん怒るの?」
「いや……怒らない」
「でしょ? ……それより、関係を終わらせてきたよ。驚いたことにさ、その人彼女が――」
「会いたい。今すぐ」
声を低くした市崎くんにドキッとする。
「うん……私も会いたい」
つぶやくように言うと、数メートル先の路肩に車が停車して、運転席から降りた人がこちらに向かって歩いてくる。
――……えっ、市崎くん!?
暗くて車種がよくわからなかったこと、市崎くんがメガネをかけていたから目前まで近づかれるまで気づかなくて。
驚く私の手を引いて車へ戻っていく。
あっという間に助手席へ座らされ、シートベルトまで装着してくれる。
「えっと……メガネ、似合うね」
来るの早かったね、もしかして待っててくれたの? とはなんとなく聞けずに、メガネを褒めると市崎くんは「ありがとう」と一瞬だけ微笑んで車を発進させた。
――お、怒って……はないよね?
会いたい。と言ってくれたのに、どことなくそっけない態度の市崎くんに不安になって黙っていると、しばらくしてマンションに到着した。
そこから部屋に入るまで、手は繋いでくれるけどやはり喋らない市崎くん。
玄関の鍵を閉めて靴を脱いだ市崎くんに続いて靴を脱ぐと、グイッと引き寄せられて強く抱きしめられた。
「いち……ざきくっ、くるし……」
背中をポンポンとすると「ごめんっ」と言って力をゆるめてくれる。
「……昨日会ったばかりなのに、会いたくてしょうがなかった」
大きな手のひらで頬を包まれて、じぃっと瞳を覗かれる。
「今日は特に。……どこか触られた?」
「……ううん、触られてないよ」
嫉妬してくれてるんだ……と思うと、どうしようもなく胸がきゅうぅぅと締めつけられる。