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春雷に君
第5章 春雷
4月中旬。
寒暖差が激しいこの時期は、油断すると体調を崩しやすいから注意が必要だ。
『最後に風邪ひいたの、いつだったか覚えてないくらいには健康だから大丈夫。心配してくれてありがとう』
君はそう言って笑ってたけど、それでも俺は君のことが心配で、少しでも会えない時間があると不安になるんだ。
「――先輩? 市崎せんぱーい、聞いてますー?」
職場の後輩、前田がビールジョッキを片手に首をかしげている。
「……あ、ごめん。聞いてなかった」
「えー……ほんっと、市崎先輩って "例の君" にしか興味ないですよねぇ」
「うん。……で、何の話だっけ?」
素直にうなずくと、前田はジョッキをテーブルに勢いよく置く。
「だから、阿部くんとうまくいきましたーって報告ですってば!」
「……よかったな。おめでとう」
「ありがとうございます~! いやぁ、ほんっと、先輩のアドバイス通りにして正解でしたよ~」
「ああ……」
――ストレートに告白してみろ、って言ったあれのことか。
「あれ、半分は冗談で言ったんだけどな」
「えっ、うそ! 先輩ひどい!」
前田が驚いた声を出すが、
「まっ、結果良ければ全て良しってことで! いや~彼ができたあとのビールうまっ!」
切り替えが早い前田に口元がゆるむ。
「……でも、彼女じゃなくてセフレがいたことにはさすがに驚きましたけど。しかも、複数人っていう」
「だな。でも、そんな阿部でもいいと思ったんだろ?」
「はい! セフレがいようが、手に入れればこっちのもんです。私の虜にして、一人ずつ別れさせていけばいいかなって」
前田がにこっと笑う。
「先輩には感謝してます。でも、先輩も私に感謝してくださいね?」
「ああ、感謝してるよ。だから今日は好きなだけ食べ飲みしてくれ」
「ありがとうございます~! あっ、すみませーん。注文お願いしまーす」
メニュー表を渡すと前田は迷うことなく店員を呼ぶ。
やってきた店員に注文を伝えたあと、前田は俺の背後に目を向けて手を振った。