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春雷に君
第5章 春雷
「小牧くん、こっちこっちー」
前田の声につられて振り返ると、店員に案内されてきた小牧の姿が目に入る。
「市崎先輩、お疲れ様です」
「おー、お疲れさん」
「前田さんもお疲れ様。隣いい?」
小牧が人当たりのいい笑顔で会釈して「いいよー」という前田の隣に腰を下ろす。
「小牧なに飲む」
「あ、今日はすぐ酔いそうなんで酒はやめときます」
「わかった。メシ適当に頼んどいたけど追加で食べたいのあるなら好きに頼んでくれ」
「やったー! 俺もう腹ペコで死にそうでした。すみませーん、注文いいですかー!」
小牧が追加注文をしてそれが届くとテーブルの上はすぐにいっぱいになった。
俺も結構食べるほうだが、小牧はもちろん前田も食べるほうで気持ちがいい。
しばらくは会社の上司やお局のグチで盛り上がっていたが、うまいメシを腹に入れてだいぶ落ちついたのか小牧が「あ、そういえば」と切り出す。
「あいつ……江藤の件ですけど、うまくいってるみたいです」
「そうか」
「はい。運命の相手に出会えたーって盛り上がってたんで、円滑に関係は切れると思います」
「ああ、助かった」
内心ホッとしながらビールをあおる。
――これで、不安要素は消えた。
「で、どうなんです?」
ウーロン茶を片手に小牧が探るような視線を向けてくる。
「ん?」
「例の君さんとは、付き合えたんですか?」
「……いや、まだ」
「えっ!?」という小牧と
「なぜ!!」という前田。
「なぜって……」
――そんなの、俺がいちばん思ってるよ。
すきだ、と何度か口にしたものの、冗談かなんかと思われてるのかスルーされている。
いや、俺がはっきり「セフレじゃなくて、恋人になってほしい」と言えばいい話なんだけど、断られるのがいやでなかなか言い出せずにいる。
「やっぱ、はっきり言わなきゃだよなぁ……」
「ですね。グダグダしてる男はかっこ悪いですよ。グダグダしてるうちに別の男にかっさらわれてもいいんですか?」
前田の言葉に「え、やだ」と即答すると、前田も小牧も軽く吹き出す。