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花の香りに酔う如く
第12章 沈丁花に誓う初めての夜の後〜律
沙羅ちゃんが日本語で、
「律さん、ここ、お高いお店だからダメです」と言うから、

「良いじゃない?
お揃いで身につけられるし、
長持ちするんじゃない?
新婚旅行なんだし」と、
僕の方が説得すると、
恥ずかしそうに、
「じゃあ、律さん、
選んでくださいね?」と言うので、
今度は僕が真剣な顔で沙羅ちゃんの肌の色に似合う色の手袋と、
寒がりだから大判のストールを選んで、
帽子だけお揃いのにしてみた。


「ハネムーンなら、
記念になるお品はいかがですか?」と、
スタッフさんがバッグもいくつか出して来てくれる。


「折角だからひとつ、
プレゼントさせて?」と言うと、
沙羅ちゃんは、
「私なんかに似合わないから」と困惑した顔をする。

多分、フランス語で、
同じことをスタッフさんに言うと、
スタッフさんはにこやかに何かを言っていた。


「何て言ってるの?」と言うと、
恥ずかしそうに、
「これはモナコのグレース王妃が、
妊娠中にパパラッチからお腹を庇うようにして持ったバッグですよって。
大切に使えば、
子供にも渡せるって…」

「素敵な話だね?
これなら、学校行事とかにも持てるんじゃない?」

「そういえば、ママも、
この形のバッグ、使ってたかも」と笑う。


そして、スタッフさんとまた、
フランス語で話をして、
黒ではなくて、
紺のバッグを選んだ。


「文字も入れられますよ?」と言われて、
『Sara』と入れたものをホテルに持って来てくださいとお願いしていた。


すっかりスタッフの人と打ち解けて、
お勧めのレストランを訊いて、
そこから予約もして貰うと、
店を出る時にはフランス人同士のように頬にキスをする挨拶をしていたから、
本当に沙羅ちゃんは誰とも仲良くなれる人だと思って、
感心してしまう。

ぶっきらぼうで無愛想な僕とは正反対だ。


夕食のレストランでは、
食後にそのスタッフさんからだと言って、
可愛らしく文字が書かれたスイーツを出して貰って、
沙羅ちゃんは嬉しそうに頬張っていた。



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