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彼女はただ満たされたい
第1章 元カノは今日も中に招く
 目が覚めた時、ゆりは横にいなかった。
 ベーコンやパンが焼けるいい匂いがする。コーヒーの匂いも混じっており、ザ・朝食って感じがする。ゆりは朝白飯を食べない。洋食が好きではあるが好きな作家の真似をしている、と付き合っていた頃に照れくさそうにいっていたことを思い出す。たいして好きでもないコーヒーを豆で買って、飲む直前に挽き丁寧に淹れるのもそう。
 俺は身に何も着けずにキッチンに向かった。
 やり過ぎたせいか、身体がギシギシと軋み重たく感じる。それなのに、まだし足りないとでもいうように、朝の生理現象がしっかり起きている。
 キッチンに立つゆりは、出かけ用の服を身にまとっているだけで、エプロンは着けていなかった。フライパンでベーコンと卵を焼く背中に張り付き、大きくなっているモノを尻の割れ目に擦り付ける。
 ゆりからは石鹸のいい匂いがした。その匂いを深く吸い込みながら、悲しくなってくる。付き合っている頃、身に着ける香りにゆりはこだわる女だったことを思い出すからだ。あれから変わったんだなと嫌でも実感してしまう。
 香りの質とかではなく、その日の気分にピッタリの香りを選ぶのが好きだといって、朝必ず今日の香りを選ぶゆりの瞳は輝いていた。それなのに、今の男は石鹸の匂いが好きだからと、男と会う時ゆりは香りを選ばない。
 自分を捨ててまでそいつといてなんの意味があるのか、俺ならそのままのゆりを愛すのにと思ってしまう。
「男のところになんか行くなよ」
 ゆりの首筋に顔を埋めながら懇願していた。付き合う前でも、休日は全部俺にくれよ。
「約束してるから」
 そういいながら火を止めて、フライパンから皿にベーコンと卵を移した。チンッと音を立ててパンが焼けたことをトースターが教える。
 首筋に舌を這わせた。ゆりを強く抱きしめる。
「ダメ。せっかくシャワー浴びたのに」
 腕の中から逃げようとするゆりを更に強く抱きしめる。
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