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第1章 忍び寄る魔の手

アシュラフは、俺たちを知人が経営するというホテルに案内してくれた。植民地時代に建てられたコロニアル風のホテルは、独立運動時代に要人を匿う場所として使われていたらしく、いくつかの部屋には、いざという時に身を隠す場所が備えられていた。その一室を俺と芽衣は借りることになった。

「日本人の夫婦では目立つから、表向きは、芽衣さんは中国人、僕と芽衣さんが夫婦ということにしよう。周大は、僕たち以外の人間に見られないように、ここでじっと息を潜めているんだ」

さすがはアシュラフだ。武装勢力は、なぜか中国だけは排斥対象としていなかったので、そこに目を付けた素晴らしいアイデアだった。俺たちは彼の提案を受け入れた。

「食べ物や飲み物は、毎日僕が届ける。レストランを使うわけにはいかないからな」

「え、届けるって、君は一緒に住まないのか？」

「新婚夫婦の部屋に一緒に住める訳ないだろう。僕は従兄の家に泊まるよ」

アシュラフは、冗談言うなよ、という顔をした。

「でも、表向きは、君と芽衣が夫婦なんだろう？　怪しまれないか？」

「大丈夫、ホテルのオーナーには事情を話してあるし、他の人間には僕は夜勤の仕事をしていると言うよ」

アシュラフは笑いながら俺の肩を叩いた。

「ありがとう、アシュラフ」

俺は心から彼に感謝した。