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かくれんぼ
第3章 回想 里織
 三学期になって勉強会の様相が変わった。
 学校のある月曜日~金曜日の放課後は今まで通り用務員室での国語、理科、算数、社会科を日替わり授業。
 そして土日祝日は俺の家での保健の実習になった。
 自宅に押し掛けての個人勉強会と聞いて涼音ちゃんの両親は恐縮していたが成績が天井知らずの鰻上りだった事が後押ししてすんなり認めてくれた。
 それどころか家庭教師代を払うとまで言ってきたのでオヤツ代として月千円だけ貰う事にした。
 全く愛娘が授業参観NGの大人の授業を受けていると知ったらどんな顔をするのだろう。
 
 1月。成人式が終わった翌月曜日。
 涼音ちゃんの勉強は復習ではなく五年生の予習になっていた。
 あれだけ苦手だった小数だが今ではかけ算割り算もスラスラ解けるようになっていた。
 黙々と問題に取り組む涼音ちゃんを横目で見ながらお茶を淹れる為に薬缶を火にかけていると突然ノックもなしにドアが開かれた。
 「タヌキさん居ますか?」
 ハキハキした声が響く。
 「はぁ~い!」
 ガスの火を止めて出ていくとそこにはスラッと背の高いボーイッシュな風体の女の子が立っていた。
 慎ましく膨らみかけた胸の名札には「4年2組 赤沢里織」とある。
 4年2組なら涼音ちゃんのクラスメートだ。
 もしかしたらウサギ小屋当番を涼音ちゃんに押し付けた一人かもしれない。と、内心警戒を強める。
 「どうしました?」
 「西校舎の四年生の女子トイレの蛍光灯が切れたので交換して下さい。」
 西校舎は四、五、六年生の教室が入っている鉄筋三階建ての校舎で四年生3クラスは一階を使っている。
 「判りました。明日までに交換しますね。」
 作業自体は5分もあれば出来るので涼音ちゃんの帰った後にゆっくりやるとしよう。
 「お願いしまぁ~す!」
 元気よく頭を下げる里織ちゃんの動きが止まる。
 「あれ?え~っと~。そうまさん?」
 ちゃぶ台に向かい鉛筆を走らせる涼音ちゃんに対する微かな記憶を絞り出し思い出すような呼び掛けに違和感を感じる。
 同じクラスになって9ヶ月程経つのに未だ名前を覚えてないなんてあり得るのか?
 「あっ。赤沢さん。こんにちわ。」
 応える涼音ちゃんの方も少しよそよそしい。
 いったい何なんだろう
 「?」
 その思いが顔に出ていたのだろう。
 涼音ちゃんが立ち上がり寄ってくる。

 
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