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制服を着た獲物
第1章 ホテル
ロビーの時計が午後十時三十分を指した。遅番のヘルプに入っていた井上恭子が、自分の腕時計に目を落とす。タイムカードに退勤の打刻をするため、恭子はフロント奥に下がっていった。恭子の後ろ姿に香坂が「お疲れ様でした」と声を掛けたが、恭子は香坂の言葉を無視した。「ふん」そう香坂から声が漏れた。隣にいる同僚の岩崎はそれに気づいていない。
三か月間恭子の香坂に対する態度は変わっていない。香坂が恭子に話かけても、恭子はどんな時も必要な語数だけで香坂に返す。もちろん恭子が、仕事以外で香坂に話かけることは一度もなかった。三か月前に転職してきた四十一の香坂でも、入社して五年が経つ二十五の恭子は先輩にあたる。香坂の指導も恭子が当たっていた。
恭子が三階の社員更衣室に向かうため、エレベーターを待っている。今度は岩崎が恭子に「お疲れ様でした」と声を投げた。恭子は香坂の隣にいる岩崎を振り返り、にこりと笑って軽く頭を下げた。恭子の乗ったエレベーターの扉が閉まり、上階に向かう。
「気にすることないですよ」
岩崎がパソコンの画面を見ながら香坂にそう言った。
「ふん」
香坂は岩崎に聞こえるようにそう声を出した。
「彼女、シティホテルから来た香坂さんに嫉妬してるんですよ。うちみたいなビジネスホテルと香坂さんがいたホテルとは全然違いますからね。気にしないでください」
岩崎は香坂より十一下の三十歳、この男も三年前にこのホテルにやってきた転職組だ。
「気にしてないさ」
「香坂さん、英語できるでしょ。一月前だったかな、シンガポールから来たお客さんがいたじゃないですか、そのお客さんを担当したのは香坂さんで、彼女、英語で四苦八苦してましたからね。それ、プライドがある彼女にはショックだったんでしょうね」
「プライドか」
溜息のように香坂からその言葉が漏れた。
「知ってます? 噂だけど井上さん、支配人の女らしいですよ」
岩崎は香坂の方を向いて小さな声でそう言った。
恭子が支配人の女ではないかということは、大分前から香坂の耳に入っていた。客室を清掃するスタッフの間でも、支配人と恭子の関係を知らない者はいない。
「岩崎君、悪いけど三十分ほど休み貰えるかな」
チェックインの客もあと数名、忙しい時間帯は過ぎている。岩崎はダメだとは言わないはずだ。
この時間、このタイミングでしか俺の計画は実行できない。
三か月間恭子の香坂に対する態度は変わっていない。香坂が恭子に話かけても、恭子はどんな時も必要な語数だけで香坂に返す。もちろん恭子が、仕事以外で香坂に話かけることは一度もなかった。三か月前に転職してきた四十一の香坂でも、入社して五年が経つ二十五の恭子は先輩にあたる。香坂の指導も恭子が当たっていた。
恭子が三階の社員更衣室に向かうため、エレベーターを待っている。今度は岩崎が恭子に「お疲れ様でした」と声を投げた。恭子は香坂の隣にいる岩崎を振り返り、にこりと笑って軽く頭を下げた。恭子の乗ったエレベーターの扉が閉まり、上階に向かう。
「気にすることないですよ」
岩崎がパソコンの画面を見ながら香坂にそう言った。
「ふん」
香坂は岩崎に聞こえるようにそう声を出した。
「彼女、シティホテルから来た香坂さんに嫉妬してるんですよ。うちみたいなビジネスホテルと香坂さんがいたホテルとは全然違いますからね。気にしないでください」
岩崎は香坂より十一下の三十歳、この男も三年前にこのホテルにやってきた転職組だ。
「気にしてないさ」
「香坂さん、英語できるでしょ。一月前だったかな、シンガポールから来たお客さんがいたじゃないですか、そのお客さんを担当したのは香坂さんで、彼女、英語で四苦八苦してましたからね。それ、プライドがある彼女にはショックだったんでしょうね」
「プライドか」
溜息のように香坂からその言葉が漏れた。
「知ってます? 噂だけど井上さん、支配人の女らしいですよ」
岩崎は香坂の方を向いて小さな声でそう言った。
恭子が支配人の女ではないかということは、大分前から香坂の耳に入っていた。客室を清掃するスタッフの間でも、支配人と恭子の関係を知らない者はいない。
「岩崎君、悪いけど三十分ほど休み貰えるかな」
チェックインの客もあと数名、忙しい時間帯は過ぎている。岩崎はダメだとは言わないはずだ。
この時間、このタイミングでしか俺の計画は実行できない。