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横を向いて歩こう
第3章 ライフイズエキサイティング
「かんぱーい。」

一週間の研修が終わり
あたしもお情けで打ち上げに呼ばれる

適当に話してとっとと帰ろうと思ったのだが
意外にも山口が話しかけてきた

「楽しんでる?」

お酒も入ってため口になっていた
研修中も個人的な話を一切しなかったので
意外だった

「うーん、程好く、ですかね。」

「吉村さんって、面白いね。」

「面白い?」

あたしは言葉通り程好くしか飲んでいなかった
上辺だけで帰ろうとしていた

「なんか、野望がありそう。もしかして、フリーになろうとしてる?」

そんな気は更々なかった
今のあたしは会社にしがみつくしかない立場なのに
この人は何を見て?

「あたしは面白味のないつまらない人間だわ。」

「そうなの?」

山口の顔が赤らんでいた

こんな顔するんだ
初めてちゃんと顔見たかもしれない
あたしにとって消化試合だったこの研修
何もかもどうでもよくて

こんな笑いかたするんだ
少し気を許していた

「フリーの道、向いてると思う。独立するなら、相談乗るよ。」

「えーっと、するきはなくて。。」

「型にはまるの嫌いしょ?」

あたしもお酒が進んできた


連絡先教えてって言われて
咄嗟に会社の携帯を取り出す

「いや、個人的な、、」

「あ、ああ!」

もう異性に連絡先聞かれるなんてないと思ってた

慌てて自分のアドレスを教える

「幸子ちゃんね。俺健人。よろしくね。」

下の名前で呼ばれていたキュンとしつつも
あたしは明日出社したら真っ先に松下に謝ろうと誓った

おかげで今あたしはここにいて
フォローしてくれて立ち直って
あの嘘がなければあたしはここまで来れなかった

「幸子ちゃん、それ、俺の、、」

考え事をしてつい山口のグラスに口をつけていた

「あ、すいません。」

慌てて口から離したがもうたっぷりとグロスの跡が付いていた

「私、ぼーっとしてて。」

「いいよ。そろそろお開きだし。」

「あの、ほんとになんとお詫びを、、」

「いいって。ほら、デザートきたよ。」

パンナコッタが人数分置かれたが
みんな盛り上がっていて手をつけようとしない

「今度お詫びします。」

「ほんと?じゃあ今度どっか行こうよ?」

「ええと、取材で?」

あたしの鈍さは群を抜いていた

山口が苦笑している

恋を始めるにはまたまだ時間がいりそうだ


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