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北の軍服を着た天使
第2章 Episode 2
「エレベーターまで送っていく。今日は帰れ。」
「あっ……はい…。」
紙袋を見て咄嗟に差し入れのケーキと分かったのか私の目をちらっと見た彼は、テーブルの上にシャトレーゼプラスの可愛らしい袋を置いてから私の手を引っ張った。
腰を抜かして歩けないと思っていたけれど、どうやら普通に立ち上がることも出来るらしい。私のメンタルは自分で思っているよりも強いのかも。
李さんは……まだ銃口を私に向けたままだった。まるであの時のデジャブだ。日本で拳銃を向けられる事があるなんて、想像すらしたことが無かった私。
「……あ、あの!」
「何も話さなくて良い。とりあえず、今日の事は誰にも口外しない様に。流川リサと云う人物はニ年前の旅行の時に俺に会ったのみで、日本と云うこの土地では誰ひとり、共和国の人間には会っていない。……そうだな?」
「──全てを忘れる前に一言だけ言わせて下さい。」
背中を押され、会議室を後にしてから、静かな廊下でゆっくりと後ろを振り返って彼の顔を真っ直ぐに見つめた。
155センチほどしかない低身長の私は、必然的に彼を見上げる形になる。
でもこんなに端正な顔立ちをしているのだから、もちろん、下から見ても横から見ても❝イケメン❞な事に変わり無い。
「何だ?」
「私は……会うべき人に、会えて良かったです。」
「あの時に言えなかった事を言います。」
「私を助けてくれてありがとう。」
「私の言葉を理解してくれて──ありがとう。」
頭を下げてから、エレベーターに乗り込んだ。
彼は先程の自分自身の様に真っ直ぐと私を見つめている。……だけど、相変わらず何を考えているのか分からない表情だった。イケメンの無表情ってのが、この世の中で一番怖い男性の顔なのかもしれないな。と場違いな事を思いながら、静かなエレベーターの中でゆっくりとため息を吐く。
───本当、今になれば辻褄が合う部分がいくつか出てくるけれど、それでも『まさか』の一言だった。こんな状況、映画でしか見る事が無い。
「良かった…。」
一人になったエレベーターの中で心の底から出た私の言葉は、嘘偽りの無い本心だった。