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北の軍服を着た天使
第2章 Episode 2
───監視カメラの映像を見ると丁度、一階に着いた流川リサがバッグの中から車のキィを取り出した所だった。
下品とは真反対の優雅なこの部屋には合わない、独特の空気感がこの場に居る二人を襲う。先に言葉を紡いだのは、もう32年の付き合いになる李の方だった。
「あのまま放っておくのですか。それとも国内の❝同志❞に連絡をして処分させるのですか。」
「さっきから処分処分って、何でわざわざ処分させるんだ?そんな訳無いだろう。」
「キム・テヒョン……! 良い加減にしてください!貴方はご自身の立場をお分かりですか。」
「ああ、痛いほどにな。」
「このまま流川リサを放置すると云う行為が、がいかに危険かと云う事も?」
「………。」
李は、此処・日本では表向き中国の老舗会社に勤める副社長と云う事になっている人物だが、祖国である共和国に帰れば、たちまち役職や立場が変わり❝対外経済委員会❞のトップであり──
北朝鮮の中で最高指導者含め五人しか選出されない❝朝鮮労働党中央委員会❞の委員候補に選出されたエリート中のエリートだ。
生まれた時から常に俺の側に居て❝日向を生きる俺❞に憎まれ口を叩いてばかりいた。そういえば、李の父親も生前は中央委員のメンバーで、国家資源開発相を歴任した偉大なる人物だ。
李は──父親とあまり接する事が出来なかった❝キム・テヒョン❞と云う扱いにくい人物を徹底的に教育してくれた男、といっても過言では無いかもしれない。