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 縄師-Ⅲ 小父とM女。
第1章  小父の半生
 この話の発端は2家族合同の花見の席で、リョウが俺に質問したことから始まる。

 俺の家は古くからの質屋だ。創業はリョウから言うと曾お祖母ちゃんのお父さんの従兄弟。その兄弟が店を継いでは早死にして俺と田村の兄貴が残っているのが、現在に至る俺の家系と言う訳だが、そんなことはどうでもいい。

 質屋のとき、一番儲けたのは中国陶器。次が刀だったらしいがこれは今でも俺らの飯の種だ。

 当時、廃刀令のせいで、ちまたには武具や刀が溢れていた。

 その時の当主は、よその質屋が二束三文で買い叩く刀を、丁寧に銘や拵えを見て、『良いお刀でございます』と言って先ず褒めた。

そして廃刀令で2度と質請けされることはないことを説明し、それでも他所よりもは少しでも高く値を付けたから、大量に持ち込まれた」

 買えば買うほど赤字になる武具だったが、時の当主は「本物は必ず後年評価される」という信念を持っていた。

 一方武士は、大事に持っていた刀なので、その値打ちを評価してくれることが嬉しかったのだろう。

「大切にお預かりさせて頂きます」
 という言葉に「それならば」と、泣く泣く名刀を手放したという。

 ところがだ」
 武器は鉄砲になり、廃刀令もある。今後日の目を見ることは無いと思われていたその刀を、戦争で出征する軍人さん達が軍刀にと、相応の値段で買い求めていった。

 終戦後はアメリカの軍人が鎧なんかを買っていった。つまり品物ってのは年と時代に磨かれて価値と値段が変化する。それを俺達は爺に叩き込まれていたから商売は順調だった。

 そんな訳で質屋の後を継いだ長兄は、俺に遠慮してか、かなり贅沢をさせてくれた。

 好き勝手に育った俺は、自分で言うのも何だが、どうしようもない糞ガキだった。
 
 よく喧嘩をしては打撲で身体を腫らしていた。そのとき女性の鍼灸師が筋肉痛を見事に治してくれて、俺もあんな技術を身に付けたいと思った。というのが鍼師になるための学校に行きはじめた理由だ。
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