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 縄師-Ⅲ 小父とM女。
第1章  小父の半生
 長兄も商才のある人間で、質草が無くても金を貸すという会員制のシステムをいち早く取り入れ、安定した収入が有ったので、屋敷や蔵は俺にくれた。

 それで生活や学費を心配せずに学校に行けたって訳だ。

 一応短大3年で国試も合格したし、鍼灸院に就職もしたんだ。

 鍼灸院で働いていたとき、俺は女性のお客さんに指名された。その院では女性の客には女性の鍼師が担当するのが売りだったが、その人は俺を指名した。その女性は全身に刺青を入れていた。   
 同僚達は、その人の旦那がヤバイ人物だとか、何かあったときの責任を俺に取らせるためだとか、根も葉もない噂をしてたが、まあ、俺がその女性の好みに合ったということが真相だな。

 別にモテたとかを言う積もりは無いんだぜ。ちづや芳恵の前だしさ。ただその刺青があまりにも見事で俺は感動した。
 惜しいのは途中で止まっていてそれは彫り師が入院したせいだということだった。

 だったら他の彫り師に頼めば良さそうなもんだと思うだろうが、この彫り師は墨から針まで全部自分で作る職人技の持ち主で、絶対他の職人には真似ができない、教えないという人だったから、止まったとこからつなぎようがなくて始末が悪い。

 じゃあ生きてるうちに俺が弟子入りして一子相伝の技を受け継ぎ、女性の――名前はよし乃と言ったが――刺青を完成させるしかないと思うのが普通の成り行きだろう。

 俺の普通はかなり違うと皆が言うが、まあ、そんな訳で俺は鍼灸から刺青の世界に入ったわけだ。

「途中ですみません」
 
 リョウが話しを遮る。

「質問ですが、鍼のときは痛くなくて、刺青の時は凄く痛いんですよね。あれはどうしてですか」

「リョウ君なかなかいい質問をするじゃないか」

 俺はリョウの質問に感心した。

 鍼と針の痛みの違いなんぞ、経験した者でなければ普通は解らない。

 何故知ってる?そんな質問は野暮ってもんだ。ネットには情報が満ち溢れている。
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