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恍惚の日々
第1章 誰?
「かなえぇ…大変なことになっちゃったじゃん…」

「全然、ちっちゃい異動じゃなくて、あたし泣きそうだよぉ。」

「打診もなくいきなり内示?」

「そして間もなく辞令…誰かに陥れられたとしか思えないよぉ(泣)」


泣き言を並べても、赴任日は迫っていた。

部屋を借りて、荷物を梱包して、諸手続きを完了させ、明日は転勤のための引っ越しだ。


父は、「頑張れ」と、弟は「部屋、貰うよ!」と、そして母は、「寂しくなるわ…ちゃんと食べるのよ、病気や怪我に気をつけて。」
と、それぞれに声をかけて、背中を押してくれた。



新幹線で赴任先へ向かう。

「ここ、いいですか?」

不意に男性の声がして、座席から見上げる。

「あ…はい、どうぞ。」

「失敬。」


はあーん…素敵な方…ん、んっ?!その徽章!うちの会社!

「あのう、どちらへ?」

「城形県(しろかたけん)ですが?」

「宝条生命…」

徽章を見つめて呟いた。

「よくご存知ですね。御同業で?」

「私も宝条生命の社員で、今、城形の駒(こま)支社へ行くんです。織本かなえといいます。事務職です。」

「そうか。頑張りなさい。」

「はい、ありがとうございます。」


名前は教えてはもらえなかった。きっと上の人なんだろうな。支部長とか支社長とか、まあ、あたしには関係ないかな?

それにしても魅力的…
40そこそこくらいかなあ。御家族は? 声も素敵だし、何だかぞくぞくする。

いろんな妄想を膨らませている内に、新幹線はホームへと滑り込んでいった。

「では、失礼致します。」
頭を下げて挨拶をし、借家へと向かった。




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