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恍惚の日々
第3章 裏腹
「着ぐるみを着ている間は、かなえは犬だから二本足で歩くことは出来ないよ。四つん這いだね。」

かなえもまんざらではないのだろう。

「クィーン」

すんなりと、犬語の返事をした。

桐谷は目論み通りになり、つぎの行動に出る。

無論、かなえにとっては、その場の雰囲気や勢い、楽しいじゃれ合いの類でしかないことは、桐谷にも解っていたが、かなえ自身が気づいていない本性は、桐谷には手に取るように簡単に見破った上での戯れ事。

そこからジワジワと入り込んでいくやり方は、かなえにはなんの不信感も与えない方法といってよかった。


「この着ぐるみを着たかなえはワンちゃんだから、人間の言葉は使えない。わかる?」

「ワンッ!」
かなえはお尻を左右に振って尻尾を振った。

「嬉しい?」

「ワンワンッ!」

よしよし、いい子だ(笑)かなえの頭を撫でてやる。


「芸を教えようね。」

おすわり

臥せ

お手 おかわり

回ってワン


楽しそうに跳ね回るかなえ。
腹を見せて、服従のポーズまでしている。そのポーズの躾はしていないのだが、桐谷にとっては渡りに船。

かなえは撫でて欲しいだけ。解ってる。

「撫でて欲しいんだね?よしよし。しかし、これは私に服従しますって事になるよ?(笑)」

意地悪な顔はしない。あくまでも遊んでいるふりだ。あくまでも。
そんな桐谷の様子に、何も疑わないかなえは、「キャンキャン」と鳴いて、撫で撫でを要求している。


可笑しいくらい思い通り。




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