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恍惚の日々
第1章 誰?
「お母さん、走らなくて平気よ。いつも通りだわ。郵便ポストの所で音が消えるの。--------安心して、消えたわ。」

先の路地に母が見えた。
よほど走ったに違いない。半世紀を生きている母が、ここまで走りきれるのはきっと年少さんを預かる仕事で培われたのだろう。
さほど息が上がってる感じはしなかった。


「お餅、2つにしなくちゃ(笑)」

「はいはい、体力消耗させてすいません(笑)」

寡黙な父と明朗快活な母が、どんないきさつで結婚したのかは、いくら聞いても教えてくれないからわからないが、少なくとも父はこんな母を妻にして幸せ者だと、私は思っている。

「なーに?お母さんの顔に何かついてる?」

「目、鼻、口、取れかかった眉(笑)。あたし、お母さんの娘で良かった!」

「お父さんに自慢しなきゃ!あたしの娘よってね(笑)」


家に着くと、玄関ドアに柊と鰯の頭がついていた。

「ぅわっ!光った!」

「鰯の目が光って、柊が刺さって鬼が逃げて行くの。靴の人も逃げるわね!鰯、いっぱい差したから。」




殊更、母は寒かっただろう。薄着で飛び出て、うっすら汗をかいた後だから。

「ねぇ、お母さん、子供達、追いかけられなくなるよ、そんなに食べて。」

「何も無くて良かった…って思ったら安心しちゃってお腹すいちゃった(笑)」

笑って言った母。やはり、心配の度合いは大きかったのだろう。



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