この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
欲灯
第1章 浮気男
〈愛を捨て、思慮を捨て、本能に従う。痴がましさを恥じず灯したその火を、『欲灯(よくとう)』というのだろう。あなたの欲灯は、いつ、何を、誰を照らすのだろう (岬タケル)〉
先週から続く秋雨前線の影響で、彼女の遥がアルバイトとして働いている珈琲店の売上は、前年比を10%も上回る好成績を収めていたらしい。
-雨が降れば混む-
これは1年前、遥が大学入学後すぐに入店した時に、先輩から教わったこの店の、定説のひとつと聞いていた。
今日は雨の土曜日、昼過ぎの店内は家族連れやカップルで賑わっている事だろう。
<必ず埋め合わせするから!ほんっとごめん!>
遥からのメールに再び目を落とした啓介は、ホームから発車する電車を背に大きな溜息を吐いた。
友達の飲み会で彼女と知り合い、恋に落ち、逢瀬はもっぱら平日の夜。
お互い実家住まいという事もあり、ファミレスで夕食をしてホテルへという日々。
遥が大学に入学すると同時に、医薬品メーカーの営業職に就いた啓介の土日休みに合わせる為、遥は健在の祖父と祖母を幾度となく死なせてきたが、それも月に一度通るかどうかの作戦だった。
そんな苦節を乗り越え、遥が入店して1年、50円の時給アップと共に土日の休みを取れやすくしてくれたのは、遥が一度も怒った顔を見た事がない店長の計らいだった。
恨むのは秋雨前線、大方の予想通りだった。
朝の時点では晴れていた為に待ち合わせを約束したが、昼前になると何処からか曇天が湧いてきて、やがて雨を落とした。
二人の待ち合わせは、いつも大体このターミナル駅で、東口にはこれから遥と行くはずだった映画館の入っている駅ビル、西口は飲み屋や風俗が所狭しとひしめき合う繁華街だった。
遥はこの駅までは電車で15分だが、啓介は50分を要するため、遥からドタキャンのメールが届いた頃には、啓介は既にここに向かってくる電車の中だった。
特に予定もなく、かといってこのままトンボ返りも気が引ける。
腹も減ってないし、買い物の予定もない。
ひとりで昼間から酒を煽るほど飲んべえでもない。
かといって、風俗にしけ込む程のお金もない。
それでもしょうがなく駅の改札を通過し、東口の出口へと歩を進めた。
外は雨の土曜日。
『駅の屋根』という大きな傘に頼り歩きながら、啓介はまたひとつ大きな溜息を吐いた。
先週から続く秋雨前線の影響で、彼女の遥がアルバイトとして働いている珈琲店の売上は、前年比を10%も上回る好成績を収めていたらしい。
-雨が降れば混む-
これは1年前、遥が大学入学後すぐに入店した時に、先輩から教わったこの店の、定説のひとつと聞いていた。
今日は雨の土曜日、昼過ぎの店内は家族連れやカップルで賑わっている事だろう。
<必ず埋め合わせするから!ほんっとごめん!>
遥からのメールに再び目を落とした啓介は、ホームから発車する電車を背に大きな溜息を吐いた。
友達の飲み会で彼女と知り合い、恋に落ち、逢瀬はもっぱら平日の夜。
お互い実家住まいという事もあり、ファミレスで夕食をしてホテルへという日々。
遥が大学に入学すると同時に、医薬品メーカーの営業職に就いた啓介の土日休みに合わせる為、遥は健在の祖父と祖母を幾度となく死なせてきたが、それも月に一度通るかどうかの作戦だった。
そんな苦節を乗り越え、遥が入店して1年、50円の時給アップと共に土日の休みを取れやすくしてくれたのは、遥が一度も怒った顔を見た事がない店長の計らいだった。
恨むのは秋雨前線、大方の予想通りだった。
朝の時点では晴れていた為に待ち合わせを約束したが、昼前になると何処からか曇天が湧いてきて、やがて雨を落とした。
二人の待ち合わせは、いつも大体このターミナル駅で、東口にはこれから遥と行くはずだった映画館の入っている駅ビル、西口は飲み屋や風俗が所狭しとひしめき合う繁華街だった。
遥はこの駅までは電車で15分だが、啓介は50分を要するため、遥からドタキャンのメールが届いた頃には、啓介は既にここに向かってくる電車の中だった。
特に予定もなく、かといってこのままトンボ返りも気が引ける。
腹も減ってないし、買い物の予定もない。
ひとりで昼間から酒を煽るほど飲んべえでもない。
かといって、風俗にしけ込む程のお金もない。
それでもしょうがなく駅の改札を通過し、東口の出口へと歩を進めた。
外は雨の土曜日。
『駅の屋根』という大きな傘に頼り歩きながら、啓介はまたひとつ大きな溜息を吐いた。