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鬼の哭く沼
第1章 祭りの夜
王子様なんて存在しない。
そんなもの、幼稚園を卒業する時にはすでに分かっていた事だ。
白馬に乗って、乙女のピンチに颯爽と現れる。そんな男はこの世に存在しない。
ピンチに連れの女を置いて逃げて行く男は居ても、だ。
地面に尻持ちを付いて倒れた香夜の視界の端に見えたのは、ついさっきまで彼氏志願をしていたゼミ仲間の後姿。
あーあ、そんな全力で逃げて行きやがって…コンチクショウ。生きて戻ったら憶えていろよ、ぎったんぎったんにしてやるんだから。
戻ったら。
そんな固い誓いを胸に、香夜の顔面からは血の気が一気に引いていく。
生臭い獣の吐く息が、もう目前にまで迫っていた。