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鬼の哭く沼
第1章 祭りの夜
地元の夏祭りに一緒に行かないか。
そう誘ってきたのは大学で同じゼミに所属している大野浩平だった。バイト帰りの夜道、二人で自転車を押して歩きながら唐突に申し出られて面喰った。が、断る理由も無い為二つ返事でOKを出したのが三日前。
人当たりの良い大野とは仲が良く、同じゼミ、同じバイト先なのもあって一番身近な異性だった。
有る程度の好意は持っていた、と、思う。
その大野から二人きりで出掛ける申し出を受けて、正直に言えば少し浮かれていた。悲しいかな、この年齢まで彼氏と言うものを持てた事の無い香夜にとって、何かを期待させるには十分なシチュエーション。浴衣だって貯めたバイト代を奮発して新調したし、慣れない化粧だって雑誌を買って頑張ってみた。
そして当日。
伊ノ入神社の鳥居前で待ち合わせ、浴衣姿を手放しで褒められて悪い気はしなかった。夜店をいくつか回り、花火も終盤に差し掛かった頃だ。話がある、と祭りの喧騒を離れ、神社の石段を上がった先の境内で「付き合って欲しい」と申し込まれた。
祭囃子をBGMに、提灯の明かりに照らされ、花火を浮かべた夜空を背景に。まさしく恋愛マンガや映画のような告白シーン。
雰囲気に酔っていた、のは否めない。ふわふわとした感覚のまま、はい、と応えようとした。