この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
鬼の哭く沼
第8章 溺れる魚

「鬼落ちってのは、鬼が角を折られて証を失う事を言うんだ。特に貴蝶みたいな鬼成りは、元々が人間だから角一つ無くすとあっと言う間に鬼でなくなる。でもだからって人間に戻れるわけじゃあない。どっちつかずの、中途半端なモンになっちまうんだと」


その中途半端なものを、幽鬼、と呼ぶ。読んで字の如し幽かに鬼であった者。
アタシも詳しくは知らないけどねえ、と苦く笑う。



「一度でも鬼になったモンにとって鬼落ちはそりゃあ屈辱なんだと。アタシは鬼が人間サマより高尚だなんて思わないけど。本人にとっちゃ一大事なんだろうさ。それにね。幽鬼になっちまうとこの幽世の空気は毒でしかない。陰の気とやらが元々多い場所だから、希薄な幽鬼には長い時間耐えられないんだそうだよ。だから、幽鬼になったら後はもう消えるしかない」

「消える…?」

「そうさ、霞みたいにふっとねえ」


掟破りへの重い刑罰たる所以。
元から何も無かったように、次第に空気に溶けて混ざるのだという。

消えてしまう。貴蝶が。

音の無い唇で、蒼白になって呟いた香夜の手の甲がさらりと撫でられる。少し呆れたような、優しい目で夕鶴が強張った香夜の顔を覗き込む。


「だから、アンタがそんな顔する必要ないんだよ。アンタを酷い目に合わせた女のことだってのに、心配してやるのかい」

「それは…だって。いくら好きじゃない相手でも、いきなり消えるなんて言われたら…」

「後味が悪いって?」

「……うん」


例え偽善と言われても良い。嫌なものは嫌なのだ。
正直に頷くと夕鶴は笑う。


「アンタって子はほんと、心根が真っ直ぐなんだねえ。楼主様もこてんと落ちる訳だ」

「双子もあっと言う間に懐いたそうだしねえ」

「私たちもね。はは、天性の人たらしだ」

「違いない」

「え、いや別に私は…!」


大人しく口を噤んでいた桔梗と菊月にも囃したてられ、慌てる香夜に夕鶴は眩しげに目を細める。


「まあ今回の件で、貴蝶はいくつも掟を破ったからね。鬼落ちは正当な罰さね。だけど安心おし、貴蝶は消えやしないから。鬼落ちの後、黄泉送りにされるそうだよ」

「黄泉送り…」

「消えちまう前に、黄泉に送られるのさ。黄泉に行けば消えずに済む上に、きちんと罪を償えばまた輪廻の輪に戻して貰えるってさ」


人として、また生まれる事が出来るように。



/138ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ