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鬼の哭く沼
第6章 朔月に濡れる赤
何処でこれを?と問われて分からない、と正直に答えた。いつの間にか持っていて、どこで手に入れたのか本当に分からなかったから。するとすぐに元のにんまり顔に戻り、香夜の手からするりと巾着を奪い取って懐に収めてしまった。そして何事も無かったかのように双子と遊び始めたのだったが…。
(何か、物凄く貴重なお菓子だったのかな…いやでも、ただの黒糖の金平糖だったし。それとも巾着の方が高級品とか?よくあるちりめん袋だった気がするけど)
そんなにあの金平糖が欲しかったのだろうか。美しい妖狐がもごもごと嬉しそうに金平糖を咀嚼している姿を想像して、思わず吹き出してしまう。
何故、と気にはなったが食い意地が張っていると思われたくなくて結局返してくれとも言えず。湯浴みが終わり、就寝時刻になるとそのまま巾着は九繰が持って行ってしまった。中々美味しい金平糖だったから、少し惜しい。
さぁさぁと、暗闇から暗闇へと雨粒が落ちて行く。中庭の石燈楼の火も当然無く、暗闇に雨の落ちる音だけが響いている。雨樋に溜まった雨が、纏まって軒先へと流れる少し乱暴な水音も聞える。聞えるが、全ては音だけだ。それが少し、恐い。
昔から、雨は少し苦手だ。特別に何か嫌な事があったわけではないのだが、何となく気分が塞ぐ。特にこんな雨の夜は胸の内に小さな穴が空いたような、もやもやとした感情がつきまとって眠れなくなったりする。幼い頃、眠れない雨の夜にはよく両親の布団に潜り込んだものだ。そうすると、温かい体温や心音に包まれて、安心して眠る事が出来たから。
だからだろうか。ふと、自分を抱く硬い腕の熱と、その持ち主の匂いを思い出してしまうのは。
朝の訪れ以来、須王とは一度も会っていない。何だか忙しそうではあったし、一日中顔を見ない事も今までに数回あったのだから不思議では無いのだけれど。須王が、一緒に眠ってくれたなら。憂鬱な暗雨も気になりはしないだろうに。
(って、何言ってるの自分!!)
ぶんぶんと首を振って、香夜は必死に自分の考えを振り解く。自分から須王との共寝を望むなんて、どうかしている。落ち着け、こんな馬鹿な考えは全部雨の所為だ。きっとそうだ、そうに決まっている。
頬に集まった熱を散らす様に、ぱん、と両手で勢い良く叩く。その音に驚いた双子の視線に、香夜はにっこりと笑った。