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鬼の哭く沼
第6章 朔月に濡れる赤
「よし、決めた!今夜は皆で一緒に寝よう。風花も雪花も、三人で川の字になって寝よう!」
幼子二人に挟まれて眠れば、きっとこんな感情も無くなるから。口にして、思いの他この自分の提案が素晴らしいものに思えてきた。そうだ、三人で眠れば良いじゃないか。元々が一人で寝るには大きすぎる布団なのだ。小さな双子くらい余裕で収まる。第一、こんな幼い子たちが子供だけで寝るなんて寂しいじゃないか。
「いっしょ、って?」
「いっしょに、寝る…?」
「ねね様といっしょ、ねね様のおふとんで…?」
言っている意味がわからなかったのだろうか、二人は不安そうに小首を傾げて顔を見合わせる。そうだよ、と香夜は頷いて立ち上がり二つの小さなおかっぱ頭を撫でた。痛むなんて言葉とは程遠い、さらりとした柔らかな髪が指の隙間を擽る。
「一緒のお布団で、三人で仲良く並んで寝るの。家族みたいでしょう?」
かぞく、と初めて知った単語だと言わんばかりに雪花が呟く。かぞく、かぞく、と何度も。言葉の意味を理解したのか、やがて二人の顔が次第に喜色で紅潮していくのがわかった。
「かぞくで、川のじ!」
「ねる!川のじでいっしょに、ねる!!」
きゃっきゃと手を取り合い、寝具の上ではしゃぐ愛らしい双子に頬が緩んでしまう。それと同時に、胸の辺りがちくりと痛んだ。母親のいないこの子たちは、互い以外の誰かと共に夜を過ごした事が無いのかもしれない。家族、という単語がすぐに理解出来ず、共に寝るという意味がわからなかったのがその証拠のように思えた。
寝間着を持って来る、と宣言して二人は嬉しそうに部屋を出て行く。賑やかに去るその背を見送って、香夜は立ち上がると窓辺へ移動する。雨は、相変わらず強い。暗闇に目を伏せ、寝具が湿気る前に障子窓をそっと閉じた。