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激しくしないでっ!
第6章 順番が逆でしょう?

 俺も釣られてしゃがみこむ。

 体調でも崩したのかと一瞬心配したが、杞憂に終わった。


「ふふ……」


 彼女は笑っていた。肩がぷるぷると震え、さらさらとした髪が揺れている。

 こらえきれなくなったのか、やがて彼女は吹き出した。白い歯を見せて、声をあげて笑った。


「涼川さん?」


 俺は憮然としてみせた。

 笑われた。一世一代の告白を。


「谷口くん……可愛い」


 なんだそれ、と思う。同時に、今さっきの真顔での質問は、俺をからかうためだったのかと理解した。


「ひどいよ」

「ごめんなさい」


 思えば彼女がこんなふうに、大口を開けて笑う姿なんて、初めて見る。そう思うと、もっと眺めてたいななんて思ってしまうから不思議だ。

 ひとしきり笑い終えたあと、彼女は俺の頬に、片手を添えた。

 はにかんだような、笑みになる。


「順番が逆でしょう?」

「ごめ……」


 謝罪の言葉も、最後まで言わせてもらえなかった。

 気付けば唇を塞がれていたからだ。

 彼女の柔らかい唇の感触に触れても、さんざん絞り取られたあとじゃ、欲情することはない。

 それでも彼女とのキスは嬉しい。抱きしめたい。

 ――こんなに彼女を、愛しく思える。

 まばらに浮かぶ星と、車の走行音。ムードのカケラもないような道端で、俺は彼女を抱きしめていた。
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