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小綺麗な部屋
第2章 招待
日替わりランチを三人で食べたレストラン。
デザートはダメだって、だから二品もおねだりしちゃった。
「浦田さんは、いつもこうゆうとこで食べてるの?」
「ああ」
すごい。
だって、グランドメニューって表から二千円もするビーフドリア頼んでるもの。
「お金持ちなの?」
「少なくとも、イツキくんよりは」
父さんよりも。
保健室登校の話をしたら、浦田さんの顔色が変わった。
わかるんだ。
おれの周りにはいないから、伝わんないと思った。
しっかりしなさいって怒られるかもって。
でも、苦く微笑んだだけだった。
なんだろう。
浦田さんの目の奥には、どうしようもなく悲しいものが見える。
こういうの虚しさっていうのかな。
どの扉も開かなくて、次の世界に行けないあの夢みたいに。
目当てのドアノブはわかってるのに。
次の世界じゃこのツノは通じないって知ってて飛び込まなきゃいけないあの感覚。
「……美味しい」
ティラミスの甘さは、今の気分を落ち着かせてくれた。
店を出たら電車に乗せられて、帰されるってわかってた。
だから、おいでって言われても信じなかった。
きっと、もうバイバイ。
浦田さんは用事があるだろうし、おれは邪魔。
大人は誰だって用がある。
子供にかまけてられないんだもの。
エレベーターを降りて、暑い日の中に出ると急に歩幅の差を実感した。
どこ、どこ。
浦田さんの背中はすぐ見えなくなっちゃうから、靴を追った。
下を向いてないと転んじゃう。
ぎゅっとバック紐を抱き寄せて、足音の群れを練り進む。
息が荒くなってくる。
コツコツ。
少しずつ靴が遠くなる。
まだ、目で追える。
でも、見逃してしまえば二度と捕まらない気がする。
いやだ。
いなくならないで。
一人になりたくない。
おれを一人にしないで。
「浦田……さ、ん」
あ。
靴が止まってくれた。
まだ振り向き切らない体に追いつく。
深呼吸をしたいのに、上手く肩が落ち着かない。
ふくらはぎがジンジンした。
「食後の散歩にと思ったけど、悪かった」
優しいのに、突き放された気がして込み上げた涙で鼻が痛くなる。
泣きたくなくて、拳をぶつけた。
ぎゅっと抱きとめられて、ひっくとしゃくりあげる。
よかった。
そばにいる。