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小綺麗な部屋
第2章 招待
「……置いてく、かと思った」
涙が止まらない。
暑い日差しが頭に注いでいたのに、浦田さんが前かがみになって影で包んでくれる。
「このまま、おれを置いて、行っちゃうって」
「少なくとも送り届けるまでは私が保護者だ。そんなことしないよ」
信じていいの。
でも、今日はヤダ。
まだ帰りたくないから、送り届けるなんて言わないで。
ぎゅうっと浦田さんの服を握りしめる。
手汗が滲んだ。
「帰らない……」
おれを包む力が弱くなる。
それが怖くて、もっとしがみついた。
「帰さないで」
いろんな声がする。
大人たちの、小さい子供の、駅員さんのアナウンス。
うるさい街中でも、その言葉ははっきりと聞こえた。
「わかった。一週間だね」
顔を上げると、そっと頭を撫でられた。
いい子いい子ってされてる。
濡れた頬も気にせずに、大きな掌が。
浦田さんの顔は太陽の影になってよく見えなかったけれど、口は怒ってなかった。
「よろしくお願いします」
かっこ悪いくらい声が震えた。
それでも、ちょっとだけ頭を下げられた。
礼儀よくして、嫌われないようにしないと。