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蜜愛~男になった女~
第5章 第二部【こぼれ桜】 其の二 水面下の計略
―虫も殺さぬような取り澄ました顔をして、油断のならぬ女だ。
頼母に記憶にある榎木聡一郎は、全く可愛げのない若僧であった。頼母と聡一郎の父盛綱はほぼ同年で、頼母も幼時の聡一郎を何度も見ている。年端のゆかぬ小姓勤めをしている時分から、にこりともせぬ子どもらしくない子どもであった。
倅も盛綱に似て生真面目で融通もきかない。何が愉しみで生きているのか判らぬ親子というのが、頼母の榎木父子に対する印象だった。