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蜜愛~男になった女~
第10章 番外編【櫻の系譜・弐~水面の月-高嶺桜-】 壱―お千世

今この時、お千世の心を占める面影はただ一人のひとのものであった。藩主にお目見えが叶わなかったのは残念ではあるけれど、今のお千世にとっては所詮は取るに足らない些細なことに思われる。むろん、このような胸の内を有り体に言おうものならば、更科なぞは「畏れ多い」と怒るに相違ないだろうが。
「桜の君」―、あの白き桜花(はな)の咲く場所でめぐり逢った彼(か)の人を、お千世はそう呼んだ。
この数日間、桜の君とは二度逢った。お千世は毎夜、人眼を忍んでは奥庭へ行っている。あの桜の樹の下で桜の君を待つ。
「桜の君」―、あの白き桜花(はな)の咲く場所でめぐり逢った彼(か)の人を、お千世はそう呼んだ。
この数日間、桜の君とは二度逢った。お千世は毎夜、人眼を忍んでは奥庭へ行っている。あの桜の樹の下で桜の君を待つ。

